20年以上にわたって小紙金曜連載「ブラックジャックを探せ!」を担当する医療ジャーナリストの長田昭二氏は、いま前立腺がんのステージ4ながら、精力的に取材・執筆活動を継続中だ。長田氏が実体験に基づき、読者に伝えたいことをお届けする。
余命宣告とその受け入れ
今年10月9日、筆者は主治医から「余命半年」の宣告を受けた。それまで効いていた抗がん剤の効果が薄れ、PSA(前立腺の腫瘍マーカー)が上昇に転じたのだ。以前から主治医とは、抗がん剤が効かなくなってきたら宣告を受ける約束をしていたので、慌てたりうろたえることなく、淡々と宣告を受け入れることができた。何事も事前の準備は重要だ。
生前給付金の手続きを進める
家に帰るとすぐに保険代理店に連絡し、リビングニーズ特約の申請書を取り寄せた。リビングニーズとは生命保険の給付金を生前に受け取れる制度。筆者のような単身者は、家族に遺産を渡す必要がないので、この制度は非常に助かる。病院から診断書を取り寄せ、すべての書類を保険代理店に郵送すると、約1週間で生前給付金が振り込まれた。筆者の場合約450万円が2口なので約900万円也。
財産管理と遺言書作成
これとは別に「小規模企業共済掛金」に毎月3万円を払い込んでいる。十数年続けているので、詳細な金額は分からないが、それなりの金額になっているはずだ。あと株式も少し持っている。ここに来て上がり調子なので売り時に迷うところだが、どこかで区切りをつけて現金化しておくつもりだ。知り合いの弁護士に「あとのこと」は任せる契約をしているのだが、こうした「銀行が絡むこと」は、当人が生きているうちに片付けておかないと、あとが面倒だ。
遺言書に込めた希望
弁護士からは、遺言を書くように言われている。残った財産から弁護士費用を差し引いた額を、誰と誰に何割と何割の比率で相続するのかを書く。他にも希望することがあれば、必ずしも希望通りになるわけではないが、書いておけという。筆者は香港が好きでこれまで二十数回行ってきた。そこで遺骨の一部を香港で散骨してほしい—と書くことにした。書き上げた遺言は、公証人役場に持っていって公正証書にしてもらうことで、遺言としての効力が高まる。
精神状態と死にゆく者の心構え
こうして「お金に絡むこと」は弁護士に任せたので心配ないが、肝心の「死にゆく者」である筆者の精神状態はどうなのか。幸いなことに、余命宣告を受けたいまも、以前と変わっていない。仲のいい友人がたくさんいるので、彼ら彼女らと食事をしたり旅行を楽しんだりしていると、病気のことを忘れられる。そこに前述の生前給付金が有効に使われるのだ。
単身者としての心構え
これは家族がいる人と単身者は大きく異なる。単身者は1人で過ごす時間が多い分、悲嘆に暮れやすくなるが、死によって「最愛の家族と別れる」という悲劇を経験しなくて済む—と考えることもできる。そうすることで目の前の「楽しいこと」に集中できるのだ。
理想的な死に向けて
筆者は体が動く限り仕事を続けるつもりだし、すでに来年の仕事も入ってきている。死後の準備をし、忙しく働き、友人たちと遊び、気が付いたら死んでいた—という理想的な死に向けて、一番大事なのは意識の持ち方、考え方なのだ。
前立腺がんの特徴と希望
前立腺がんは数あるがんの中でも比較的、最期まで元気でいられることの多い病気だ。筆者はそのメリットを最大限に生かして、もうひと頑張りするつもりです。