がん 闘病記 前立腺がんステージ4奮闘記

前立腺がんステージ4奮闘記(3)~2番目の抗がん剤は予想を上回る効果だったが…

前立腺がんステージ4奮闘記(3)~2番目の抗がん剤は予想を上回る効果だったが…
コラム・体験記
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進行するがんの治療選択

主治医から前立腺がんステージ4を告げられ治療を受けながら、いまも精力的に取材・執筆活動を続ける医療ジャーナリストの長田昭二氏。いま読者に知ってほしい治療の実体験をお届けする。

性機能温存を希望し、主治医(東海大学医学部腎泌尿器科主任教授・小路直医師)が勧める前立腺摘出術ではなく、「高密度焦点式超音波療法=HIFU(ハイフ)」という治療法を選んだ筆者。最初は成功したかに見えたが、数カ月後から腫瘍マーカーのPSAが上昇し始める。やはり筆者の病態では手術で前立腺を摘出すべきだったのだ。

予期せぬ転移発覚

やむなく全摘術に向けて準備をし、紹介された聖路加国際病院で術前検査を受けたところ、思いもよらぬ宣告を受けることになる。肺と胸骨に転移と思われる病変が見つかったのだ。

それまで、手術を受ければ性機能は失うものの命は助かると思っていた筆者は驚いた。ぐずぐずしているうちにがんに進行を許し、性機能どころか、近い将来に命までをも失うことになってしまったのだ。

自分の決断に後悔なし

まさに痛恨の極みだが、自分から希望し、手術を勧める主治医を説得してHIFUを受けたのだから誰を恨むこともできない。聖路加の担当医(服部一紀副院長)と相談し、手術は予定通り受けて前立腺は全摘したうえで、先の事はまた考えることにした。

HIFUで焼灼した前立腺は周囲の臓器と癒着しているので手術の難度は通常のそれとは比較にならないほど高まっている。それでも服部医師らの丁寧な手術により、わが前立腺は摘出された。

再発と転移の広がり

その後、主治医のいる東海大学病院に戻った筆者は、転移巣への放射線治療や化学療法を段階的に受けることになる。

しかし、MRIによる画像診断を受けるたびにがんの転移巣は拡大の一途をたどり、手術から3年が過ぎた2024年夏の時点では、左肩甲骨や脊椎、骨盤など広範囲へのがんの転移を認めるに至っている。

化学療法の効果と余命宣告

23年秋から点滴による化学療法を始めた。ファーストラインの「ドセタキセル」という薬はほとんど効果を見せなかったが、24年4月から切り替えたセカンドライン、つまり筆者にとって最後の砦(とりで)となる「カバジタキセル」という抗がん剤は、予想を上回る効果を見せてくれた。

投与前に50台まで上昇していた腫瘍マーカー(PSA)の値が、数回の投与でひとケタ台まで低下したのだ。

生前給付金を利用する決断

しかし、この段階での化学療法はあくまで時間稼ぎであって、根治を目指すものではない。9月から再びPSAは上昇に転じ、10月9日の外来で筆者は「余命半年」の宣告を受けるに至った。

この余命宣告については以前から主治医と話し合ってきた。抗がん剤の効果が薄れて腫瘍マーカーが再上昇した時、一つの区切りとして余命宣告をする—という約束事だ。

余命宣告後の自己計画

というのも、筆者が入っている生命保険は、余命半年の宣告を受けると生前給付金が下りる「リビングニーズ」という特約が付いている。このお金をもらうことで、その先の治療費や終活にかかる費用を賄うことができるのだ。

「おひとりさま」の筆者は、そうしたこともすべて自分で計画して進めて行かなければならない。メソメソしている暇はないのだ。

解説・執筆者
医療ジャーナリスト
長田 昭二
医療ジャーナリスト。日本医学ジャーナリスト協会会員。1965年、東京都生まれ。日本大学農獣医学部卒業。医療経営専門誌副編集長を経て、2000年からフリー。現在、「夕刊フジ」「文藝春秋」「週刊文春」「文春オンライン」などで医療記事を中心に執筆。最新刊『末期がん「おひとりさま」でも大丈夫』(文春新書)。