前立腺がんの確定診断
ステージ4の前立腺がん治療を続けながら、精力的に取材・執筆活動を継続する医療ジャーナリストの長田昭二氏が実体験を包み隠さずリポートする。
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血液検査や画像検査によって前立腺がんである可能性が極めて高くなった筆者は、生検(組織検査)に進むことになった。
生検の新しい方法
前立腺がんの組織検査は、従来は直腸越しに前立腺に向けて十数本の針を刺して組織を採取し、そのうちの1本でもがん細胞が見つかれば「前立腺がん」の確定診断—という方法だった。
しかしこの方法では、がんを針が捉えないと、がんはあるのに診断が下りない—という危険性もある。
そこで筆者の主治医である小路直医師(東海大学医学部腎泌尿器科領域主任教授)は、MRIの映像を3D処理した画像を見ながら、がんが疑われる部位に向けて針を刺す「ターゲット生検」の普及に取り組んでおり、筆者もこの方法で組織検査を受けた。
手術の選択肢とリスク
陰嚢と肛門の間の「会陰部」から針を刺し、前立腺の組織を採取する。検査そのものは7~8分で終わり、局所麻酔をしているので痛みもない。そして検査結果、やはり前立腺からがんが見つかった。
しかも、がんの「転移のしやすさ」を見るグリソンスコアという評価が10段階の8と高く出た。放置すると転移しやすいタイプのがんだったのだ。
小路医師はすぐに手術で前立腺を摘出することを勧める。しかし筆者はここで逡巡(しゅんじゅん)した。
HIFU治療の提案
前立腺を摘出すると、その周囲の勃起神経もダメージを受けることになる。つまり男性としての性機能を失う、あるいは機能低下を招くリスクが高いのだ。当時55歳の筆者にとって、これは悩みどころだ。そこで小路医師に相談した。
小路医師は「高密度焦点式超音波療法=HIFU(ハイフ)」という治療法を臨床導入していた。虫眼鏡で日光を集めて紙を焼くのと同じ要領で、超音波を収束させてがんを焼灼する治療法。これなら性機能を温存できる。
HIFU治療の適用と決断
小路医師は簡単には首をタテに振らなかった。HIFUは前立腺の中でもがんが限局している症例には適しているが、筆者の場合はその適応の外にあったのだ。
「無理せず手術をしたほうがいい」と言う小路医師に、それでも筆者は食い下がり、最後は、やや強引にHIFUを認めてもらうような感じだった。
HIFUは超音波を発する器械を肛門から直腸内に挿入し、直腸越しに前立腺のがんに向けて超音波を当てる。これも麻酔をしているので痛みはない。
治療後の変化
じつはHIFUを受ける直前まで血尿が出ていたのだが、治療後は透明な尿に戻った。
もちろん性機能も温存できたのだが、驚いたことに射精をしなくなったのだ。いや、実際には射精しているし、射精時の快感はあるのだが、尿道の構造が変化して、精液が外に出ず、膀胱に流れ込むようになったのだ。
この状況で子供をつくりたいときは、精巣から精子を取り出して人工授精することは可能だ。筆者は性機能温存は希望したが、いまさら子供をつくる気は無かったので、これはまったく問題なかった。
しかし、これで一件落着とはならなかった。