高血圧 運動・スポーツ 筋トレ 「適度な衝撃運動」で高血圧改善

「適度な衝撃運動」で高血圧改善(5)~速歩やエアロバイク、かかと落としを1日10分単位で

「適度な衝撃運動」で高血圧改善(5)~速歩やエアロバイク、かかと落としを1日10分単位で
予防・健康
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運動の適度な衝撃が健康に寄与

速歩や軽いジョギングで、足の裏からリズミカルな衝撃が加わると、高血圧や高血糖、骨粗しょう症などの改善・予防につながる可能性がある。

「まだ基礎研究段階ですが、運動のメリットは身体への適度な衝撃が関係していると考えられます。全身の組織液(間質液)が衝撃を感じて動くことが、細胞を刺激し健康に寄与することをさらに証明したいと思います」

こう話す国立障害者リハビリテーションセンター病院臨床研究開発部の澤田泰宏部長は、適度な衝撃の研究のためオリジナルの座面上下動椅子を作り、さまざまな研究を行っている。

日常の動作を工夫して健康促進

「ラットを用いた実験では、頭部への0.5Gの衝撃(加速度)でも、1Gの衝撃とほぼ同じ程度の高血圧改善効果を認めました。0.5Gは、水泳、水中歩行、エアロバイクを含む自転車こぎなどでも生じます。1日30分、速歩や軽いジョギング、水泳や水中歩行などを行うことが、健康に寄与することが期待できます」

澤田部長らの細胞の研究では、1日10分の歩行などにより、骨細胞に加わると想定される物理的刺激が骨の強度や密度を向上させる作用をもたらした。1日30分が難しければ、10分でも健康を後押しする可能性がある。1000歩は約10分と推計され、30分は約3000歩。普段よりも速く歩くことを意識すれば、たった3000歩でも健康に役立つかもしれない。

適度な運動不足の課題と現状

「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21 第3次」では、1日8000歩(65歳以上は6000歩)が推奨されている。だが、厚労省の2022年「国民健康・栄養調査」によれば、男女ともに1日8000歩に届かず、10年間で比較すると有意に減少していた。仕事や家事に忙しく、運動を後回しにしている実態が浮かぶ。

そうした中、澤田部長らの研究解明が進むと、1日10分間でも、運動方法によっては健康に寄与する可能性がある。

上下運動の意外な健康効果

「1日10分単位で、速歩やかかと落とし、階段を下りるなど、適度な衝撃を習慣的に受けることによって、生活習慣病の改善や認知症予防につながることが考えられます。それを科学的に証明したいと思っています」

適度な衝撃は、身体の上下運動で実現可能となる。ならば、遊園地のメリーゴーランドはどうなのだろうか。馬の乗り物は上下に動きながら回転するが…。

「上下動のある乗り物に1日30分週3回、乗ることができれば、健康に寄与するかもしれません」

もちろん、適度な衝撃が健康に役立つとはいえ、ストレッチやラジオ体操をしなくても良いという話にはならない。関節を動かし機能を維持するためには、全身を動かすような運動が役立つからだ。

研究の広がりへの期待

「運動が良いのはわかっていても、何がよいのかわからないことはまだ多い。どのような要素が健康に役立つのか。いろいろな角度からの研究を広げるため、他施設の研究者など多くの方に、適度な衝撃研究に参画していただきたいと思っています」と澤田部長は研究の今後を見据えた。

解説
国立障害者リハビリテーションセンター病院
澤田 泰宏
国立障害者リハビリテーションセンター病院臨床研究開発部部長。1985年、東京大学医学部卒・同整形外科入局、同大医学部附属病院整形外科、米国コロンビア大学生物学部博士研究員、シンガポール国立大学メカノバイオロジー研究所准教授などを経て2014年から現所属。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。