高血圧 糖尿病 「適度な衝撃運動」で高血圧改善

「適度な衝撃運動」で高血圧改善(4)~坂道が多い地域は糖尿病が少ないは本当か

「適度な衝撃運動」で高血圧改善(4)~坂道が多い地域は糖尿病が少ないは本当か
予防・健康
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適度な運動が与える衝撃の効果

速歩や軽いジョギングといった適度な運動は、足が地面に着いたときに衝撃を身体に与える。脳に衝撃が届くと高血圧を改善し、骨に届くと骨の密度と強度が向上する。このメカニズムを解明し、適度な衝撃運動の健康効果の研究に取り組む国立障害者リハビリテーションセンター病院臨床研究開発部の澤田泰宏部長は、新たに糖尿病などの研究を進めている。

「過去の疫学研究で坂道の多い地域は、糖尿病が少ないと報告されていました。坂の傾きが約1・5度上がると、糖尿病リスクが18%低下するとの研究もありました。そのメカニズムを解き明かしたいと思っています」。澤田部長はそう明かす。

坂道が糖尿病予防に効果的な理由

糖尿病は、血中のブドウ糖が過剰になった状態で、血管や神経などに悪影響を及ぼす。ブドウ糖を消費する最大の臓器は筋肉であり、運動不足で筋肉量が減っていると糖尿病につながりやすい。坂道は、平地よりも脚の筋肉をよく使うため、坂道が多い地域は糖尿病が少ないと推察できる。

また、坂道を使って筋肉を鍛えるなら、上り坂を歩くことが役立つと想像するかもしれない。だが、実際に筋肉強化力増進に役立つのは下り坂だといわれる。

下り坂での運動が筋肉を鍛える理由

たとえば、ダンベルを使った筋トレでは、ひじを曲げてダンベルを持ち上げるだろう。二の腕の筋肉も縮んで盛り上がり、ダンベルを下すときよりも、筋肉は強化されていると思われがちだ。しかし、ダンベルを下すような動き、つまり、筋肉を伸ばしながら負荷をかける「エキセントリックエクササイズ」の方が、筋肉の量も質も改善されると報告されている。そのことと同様に、坂道も、上り坂で脚の筋肉を縮める状態の時よりも、筋肉を伸ばしながら全身の重さで負荷をかける下り坂の方が、筋肉強化に役立つ可能性があるのだ。

「下り坂を下りるときに着地した足から衝撃が全身に伝わります。それがさまざまな器官・臓器の機能を改善し、糖代謝に役立つと考えられるのです。現在、私たちはその研究を進めているところです」

適度な衝撃がもたらす多様な健康効果

澤田部長らの研究では、0.5~2Gの衝撃(加速度)によって全身の組織液(間質液)が動くと、その刺激で細胞が活性化し、健康に役立つさまざまな現象につながる可能性がある。適度な衝撃が脳に作用すれば高血圧の改善や脳機能の向上、筋肉に作用すれば筋肉が増強されて糖代謝が促進される。血管壁に作用すれば動脈硬化の抑制、内臓脂肪に作用すれば肥満の改善にも役立つかもしれない。

この仕組みを実証するため、澤田部長は適度な衝撃を座った状態で受けられる研究用の座面上下動椅子も開発した。将来的に、膝痛や腰痛で思うように動けない人が機械的な適度な衝撃を受けることで、軽いジョギングと同程度の効果が得られる可能性がある。

無理のない範囲で運動を取り入れよう

「この研究を広げることで、健康に役立つ運動のメカニズムを解明したいと思っています」

適度な衝撃が健康に寄与する可能性があるとはいえ、慣れていない状態で軽いジョギングや速歩をすると故障につながりかねない。持病のある人は主治医と相談しながら、無理のない範囲で運動を。

解説
国立障害者リハビリテーションセンター病院
澤田 泰宏
国立障害者リハビリテーションセンター病院臨床研究開発部部長。1985年、東京大学医学部卒・同整形外科入局、同大医学部附属病院整形外科、米国コロンビア大学生物学部博士研究員、シンガポール国立大学メカノバイオロジー研究所准教授などを経て2014年から現所属。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。