高血圧 運動・スポーツ 骨粗鬆症 「適度な衝撃運動」で高血圧改善

「適度な衝撃運動」で高血圧改善(3)~1日10分の歩行が骨の強度と密度を維持

「適度な衝撃運動」で高血圧改善(3)~1日10分の歩行が骨の強度と密度を維持
予防・健康
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適度な衝撃が健康に与える効果

速歩や軽いジョギングで地面に足を着いたときに、身体に伝わる適度な衝撃。この健康効果が明らかになりつつある。研究を行う国立障害者リハビリテーションセンター病院臨床研究開発部の澤田泰宏部長らにより、高血圧の改善や脳機能の調整・維持に働くことがわかった。さらに、骨の強度と密度を維持することも明らかにされている。

骨を強くする衝撃のメカニズム

「骨の90%を占める骨細胞(こつさいぼう)は、間質液(組織液)にひたっています。速歩やジョギングで足が地面についた時の衝撃で間質液が動き、骨細胞に力が加わることで骨の強度が上がるのです。このメカニズムを解明しました」と、澤田部長は解説する。

速歩や軽いジョギングなど、身体に衝撃が加わる運動を行うと骨の間質液が動く。その力を感知するタンパク質(Cas)が、炎症や老化に関わる別のタンパク質(NF—κB=エヌ・エフ・カッパ・ビー)の活性を抑制することで、骨の強度や密度を維持するのだ。

適度な衝撃が必要な理由

澤田部長らのマウスの研究では、運動しないような状態で、適度な衝撃が加わらないと骨量は減少。また、衝撃が伝わらないように細工し、マウスに運動させても骨量は減少した。つまり、単に身体を動かせばよいというわけではなく、速歩や軽いジョギング程度の衝撃が、骨の強化で欠かせないのだ。

骨粗しょう症への注意

「軽度な衝撃は役立ちますが、骨粗しょう症の人が激しい運動を行うと微小骨折が生じます。それを震源に骨の組織が破壊され、骨折につながるので注意が必要です」

骨粗しょう症の人が、重い荷物をグッと持ち上げるなど骨に強い負荷をかけると、微小骨折が生じ、その骨を中心に背骨の圧迫骨折などにつながる可能性があるのでご用心。

1日10分で骨強化効果が持続

「骨を強くするには、適度な衝撃がよいのです。私たちが行った細胞の研究では、1日10分間の歩行などにより、骨細胞に加わると想定される物理的刺激の効果は、その後、24時間続きました。効果は持続するのです。ぜひ1日10分、歩いていただきたいと思います」

健康全体に広がる適度な運動の影響

澤田部長は、もともと整形外科医で骨に詳しい。その後、運動が健康に役立つメカニズムを調べるため、細胞生物学者の道を歩んだという。そして今、適度な衝撃による間質液の動きと細胞の活性化、全身に存在するCasやNF—κBへの影響について研究を進めている。

「骨も脳も臓器も、同じ仕組みで、適度な運動によって好影響を受けていると考えられます。それを解明したい。過度な運動は逆効果になりますが、適度な運動は誰でも取り組めるでしょう。なぜ健康にいいのか。どう取り組めばより効果的なのか。研究課題は山積です」と、澤田部長は解明に向け意欲的だ。

解説
国立障害者リハビリテーションセンター病院
澤田 泰宏
国立障害者リハビリテーションセンター病院臨床研究開発部部長。1985年、東京大学医学部卒・同整形外科入局、同大医学部附属病院整形外科、米国コロンビア大学生物学部博士研究員、シンガポール国立大学メカノバイオロジー研究所准教授などを経て2014年から現所属。
執筆者
国立障害者リハビリテーションセンター病院
澤田 泰宏
国立障害者リハビリテーションセンター病院臨床研究開発部部長。1985年、東京大学医学部卒・同整形外科入局、同大医学部附属病院整形外科、米国コロンビア大学生物学部博士研究員、シンガポール国立大学メカノバイオロジー研究所准教授などを経て2014年から現所属。