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和田秀樹氏と考える「薬の飲み過ぎ」と不調

更新日:2025-01-19
和田秀樹氏と考える「薬の飲み過ぎ」と不調
病気・治療
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高齢になり複数の持病を抱えるようになると、処方される薬の数も多くなる。しかし薬の多剤併用は「ポリファーマシー」と呼ばれ、かえって健康被害リスクが出てきてしまう。薬の飲み過ぎによるリスクについて、高齢者専門の精神科医で、ベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎新書)でも知られる、和田秀樹氏に聞いた。

その不調、薬の飲み過ぎが原因かも

「現在の医療では検査で異常な数値が出たら一つ一つ薬で対応するため、薬を飲み過ぎている高齢者は多いと思います。しかし年を取れば取るほど肝臓が弱ってアルコール分解機能が落ちるのと同じように、薬の分解機能も落ちていくのです」

薬による治療を受けるきっかけの一つが、健康診断。健康問題を早期に発見するためのものであるはずなのだが…。

ふらつき、転倒、もの忘れ…

高齢者に起こりやすい副作用には、ふらつきや転倒、もの忘れなどが挙げられるという。

「東大病院老年病科の研究では、薬の数が5種類に増えると、4種類と比べて転倒リスクが倍に上がるとされています。足腰が弱くなってふらついているかと思いきや、実は薬の副作用で頭がふらついたということです。さらに6種類以上になると5種類までと比べてさまざまな副作用が明らかに増えるとされています」

ポリファーマシーが起こる背景には、複数の医療機関を受診している場合に「お薬手帳」が利用されず、医師が他の病院での処方を把握するのが困難であることが挙げられている。和田氏はさらに医療システムについても言及する。

臓器別診療の課題と副作用

「1970年代から大学病院が中心となって臓器別診療が始まりました。一つ一つの臓器において、基本的には異常値が出たらすべて正常に戻そうとします。このため臓器別診療の考え方においては、心臓の薬、胃の薬というように、どんどんと増えていってしまうのです」

さらに和田氏が指摘するのは、日本人の平均寿命についてだ。厚生労働省公表の「簡易生命表」によると、2023年は女性が87.14歳、男性が81.09歳。国別では女性は1位だったものの、男性は4位から5位にランクダウンした。

総合診療の必要性

「男性の2位はスウェーデン(81.58歳)でした。高齢者をヨボヨボの状態にさせないことを重視し、薬などで無理やり長生きさせるよりも、いわゆる『ピンピンコロリ』を目指した方針を取ってきたのがスウェーデン。口までご飯を持っていき食べることをしなければ、『この人はもう生きる意思がない』と見なされてしまうほどです。しかし、そのスウェーデンの平均寿命が日本とそれほど変わらない。賛否両論あるでしょうが、服用する薬が多すぎないかということはチェックした方がいいでしょう」

今年3月の著書『薬害交通事故 免許返納を決める前に読む本』(ワニブックスPLUS新書)でも、服用中の薬をチェックする重要性について解説した和田氏。薬を必要最小限に抑えるために、体の部位や専門領域にとらわれず幅広く診療する「総合診療」の必要性を指摘した。

薬と上手に付き合う方法

「総合診療科を取り入れている病院はいくつかありますが、現実問題としては日本の場合、総合診療医は医師全体の内の2%ほどしかいません。しかし高齢者が日本の人口の29%になっており、総合診療医を増やさないといけないのは明白です。厚生労働省などが中心となって、高齢者が元気になるための医学教育と薬の飲み方のガイドライン、総合診療医養成のための学校をつくることなどを早く進めてほしいですね」

「死なない代わりにヨボヨボになった、では元も子ない」というのが、和田氏の持論だ。

「人間には個人差がありますから、体の調子と相談しながら薬と付き合うことが大切です。4種類くらいまでにちょっとずつ減らせれば、多剤併用による健康被害を抑えられるでしょう」

解説
精神科医
和田 秀樹
精神科医。1960年6月7日、大阪府生まれ。62歳。1985年、東京大学医学部卒業。東大医学部付属病院精神神経科、高齢者専門の浴風会病院、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローなどを経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授、緑鐡受験指導ゼミナール代表。老年精神医学、受験などの著書多数。