高血圧 運動・スポーツ 「適度な衝撃運動」で高血圧改善

「適度な衝撃運動」で高血圧改善(1)~なぜ運動すると血圧は下がるのか

「適度な衝撃運動」で高血圧改善(1)~なぜ運動すると血圧は下がるのか
予防・健康
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高血圧と運動の関係

国内で約4300万人の患者数が推計される高血圧は国民病ともいわれる。改善・予防には、減塩など食事内容の見直しと運動習慣が欠かせない。では、なぜ高血圧に運動が役立つのか。そのメカニズムの一端が昨年明らかになった。ポイントは、脳に対する約1G(重力加速度)の衝撃だ。研究を行う国立障害者リハビリテーションセンター病院臨床研究開発部の澤田泰宏部長に聞いた。

高血圧に対する運動療法は、速歩やスロージョギングなど、ややきつい有酸素運動を「毎日30分以上」行うことを日本高血圧学会などが推奨している。有酸素運動直後から血圧は約4~5㎜Hg低下し、その効果が22時間程度持続するからだ。この事実は、過去の研究で証明されている。

運動が血圧を下げる理由

では、なぜ運動をすると血圧は下がるのか。一般的な話として、適度な運動は血管を広げて血流をよくし、血圧が下がりやすくなる。また、血管壁から一酸化窒素(NO)が分泌されることで、しなやかな血管を後押しして動脈硬化を抑制し、高血圧を予防するといわれている。だが、澤田部長らが発見したメカニズムは、血管ではなく脳への運動のアプローチだった。

「軽いジョギング(時速7キロ程度)で、足が地面に着地するときに約1Gの上向きの衝撃が頭部に加わることが、私たちの研究で明らかになりました。その衝撃によって脳内の組織液(間質液)が流れて細胞への力学的な刺激になり、高血圧改善につながるのです」と澤田部長は解説する。

1Gの衝撃がもたらす効果

「1G」は、重力によって生じる加速度で「G」は加速度の単位。軽いジョギングでは、前足をついたときに1Gの衝撃(数値で表す場合には加速度と表現される)を全身が受けることになる。

「高血圧には、血圧上昇作用の生理活性物質(アンジオテンシンⅡ)が関わります。脳でアンジオテンシンⅡの受け皿となる受容体の発現が増えると、血圧が上昇します。軽いジョギングのような1Gのリズミカルな衝撃を1日30分、2~3週間続けると、アンジオテンシンⅡ受容体の発現が抑えられることがわかったのです」

高血圧改善の新しいアプローチ

アンジオテンシンⅡあるいは、その受容体の発現が増えるなど、アンジオテンシン系の働きが強くなると血圧が上がる。そのため、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)のような降圧薬も普及している。が、軽いジョギングの約1Gの衝撃を脳が1日30分受けることでも、アンジオテンシン系の働きを抑制することが期待できるのだ。

澤田部長らは、適度な衝撃の間質液流動の研究をさらに進めるため、オリジナルの「座面上下動椅子」を作成した。この椅子に座って座面が上下すると、1Gの衝撃をジョギングしなくても人間の脳で感じることができる。

椅子による高血圧改善研究

「人間における研究で、座面上下動椅子に1日30分、週3回座り、1カ月続けると高血圧改善効果がありました。その後、約1カ月は高血圧改善が続いたのです。さらに研究を進め、1Gの衝撃の効果を明確にしたいと思っています」

解説
国立障害者リハビリテーションセンター病院
澤田 泰宏
国立障害者リハビリテーションセンター病院臨床研究開発部部長。1985年、東京大学医学部卒・同整形外科入局、同大医学部附属病院整形外科、米国コロンビア大学生物学部博士研究員、シンガポール国立大学メカノバイオロジー研究所准教授などを経て2014年から現所属。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。