高齢者の「様子がおかしい」を解き明かす
親が部屋を片付けなくなった、外出をおっくうがる、ネットの陰謀論を信じている—様子がおかしい原因は?
のべ10万人以上の高齢者に接した医師が解き明かしてくれる一冊が、『老いた親はなぜ部屋を片付けないのか』(日経BP刊、990円)。著者は眼科病院副院長で医学博士の平松類さんだ=写真。
老化による行動変化の医学的理由
平松副院長は、多くの患者と接した経験をもとに、様子がおかしいと感じる高齢者の行動について、医学的な事実と照らし合わせて分析。
それらは認知症ではなく、白髪やシワと同じ、単なる老化にともなう変化であることが多いとして、事例ごとに説明し、老いた親との付き合い方を教えてくれる。
たとえばタイトルにもなっている、部屋の散らかり。これは、医学的に見ると「視覚情報の変化」ではないかという。白内障などで視力が低下し、色の差がわかりにくくなる。
つまり、「放置しているのではなく、散らかっていたり汚れていたりすることに気づいていないだけだ」と説く。
言うことを聞いてくれない理由
言うことを聞いてくれなくなった、という悩みも老化による聴覚が関係している。
高音が聞き取りにくくなっており、こちらが何かを要求するときには声を高く張り上げがちなため、かえって聞こえにくくなるという。「悪口は良く聞こえる」と言われるのも、そうした話は低音でひそひそと話すためだ。
安心感をもたらす具体的な提案
このように、違和感をおぼえる高齢者の変化に対して医学的理由をもって具体的に解き明かし、どう応じてあげるべきかも提案してくれる。
読み進むうちに悩みの理由が分かり、スッキリと安心できる。
もちろん、すべてのケースが慌てなくていいわけではない。認知症ではなくとも「介護」のリスクがある変化かどうか(別項参照)を判断基準にすると良いと、本書で提案する。
著者が本書を書いた理由
眼科が専門の平松副院長が、こうした本を書いた理由を語る。
「医師として『自分の親の様子がおかしい』という相談を受けることがよくあります。特に多いのが『部屋を片付けなくなった。認知症ではないのか?』というものです。実際には認知症ではなく、別の医学的な理由が隠れている場合も多い。だから、慌てる必要はありませんよ、ということを分かっていただきたくて書きました。自分の親と接する際の参考にしてくださればうれしいです」
自分自身の老いへの備えにもつながる一冊だ。
親が「介護」が必要かどうか判断した原因
<男性>
- 脳血管疾患(脳卒中)
- 認知症
- 高齢による衰弱
- 骨折・転倒
- 心疾患(心臓病)
<女性>
- 認知症
- 骨折・転倒
- 高齢による衰弱
- 関節疾患
- 脳血管疾患(脳卒中)
※厚生労働省2022年「国民生活基礎調査」から