認知症の行動・心理症状の背景にあるニーズ
認知症の人の行動・心理症状の背景には、身体の痛みなど、多くがベーシックな身体的ニーズがあると、東京都医学総合研究所社会健康医学研究センターの西田淳志センター長は話す。
そのため、東京都が推進する「日本版BPSDケアプログラム」では、23項目の背景要因についてチェックすることから始めている。
「背景要因(ニーズ)の分析においては、23項目からなる専用のチェックリスト(表参照)を用います。『食事の摂取量が不足している』『聴覚や視覚の問題がある』『排便の問題がある』などといった質問に、ケアに関わる職員それぞれが『はい/いいえ』で回答します。なぜそのような回答をしたのかをチームで話し合い、共有することで分析を深めています」
ケアプログラムの導入効果
この23のニーズをていねいに分析することで、行動・心理症状が改善していくという。
西田センター長らはこの「日本版BPSDケアプログラム」を使って、2016~17年にかけて、認知症の行動・心理症状(BPSD)のケアプログラムの導入効果を検証する、クラスターランダム化比較試験(RCT)を実施した。
都内の居宅介護支援事業所などでケアプログラムを実施する事業所群と、通常のケアを行なう事業所群とに分け、両群併せて283人のNPI(行動・心理症状)データを収集。その結果、ケアプログラムの導入によりBPSDの減少効果が証明されたという。
都内全域での普及を目指して
そして18年から東京都でこれら普及が行われ、25年には都内全域での普及を目指している。同様の実践を展開しているスウェーデンでは、主に施設系のサービスで実施されてきたが、東京都では在宅系のサービスでの運用も視野に入れて開発。
「介護の現場でも、エビデンスのある方法でケアをしていくことが大事です。エビデンスのあるプログラムを、だれもが実行できるような仕組みが必要です」
ユマニチュードとの共通点
フランス発のユマニチュードというケア技法も、当ケアプログラムと基本的な考え方は同じだ。
「認知症に限らず、高齢者のコミュニケーション上のハンディキャップをよく理解した関わりを技法としています。高齢者は耳が聞こえづらい、見えづらい人が多いけれど、ご本人は聞こえているつもり、見えているつもりであることが多い。そういう高齢者の感覚器のハンディキャップを理解して、聞こえるように話しかける、驚かさないように正面から目を合わせて話す。われわれの23項目チェックリストの中にもそれは入っています」
西田センター長は、取り組みの重要性について、このように話している。
背景要因の分析の23項目チェックリスト
【身体的ニーズ】
- 食事の摂取量が不足している
- 水分摂取量が不足している
- 発疹やかゆみがある
- 排便の問題がある
- 排尿の問題がある
- 眠気や疲労がある
- 視覚の問題がある
- 聴覚の問題がある
- 体温の異常がある
- 脈拍に異常がある
- 血圧に異常がある
- 血糖値に異常がある
- 呼吸が苦しそう
- 身体の痛みがありそう
- 身体の不快感がありそう
- 処方箋の見直しがされていない
【姿勢】
- うまく座れない、2時間くらい姿勢を変えないなどの問題がある
【環境】
- 明るさが足りない
- 寒い・暑い
- 家具などが動きの妨げになっている
- 身体拘束されている
- 他の利用者・周りの人とトラブルがある
- 他の利用者・周りの人と交流がない
(※複数の要因にチェックがついた場合、対応の「優先度」を話し合う。一度に網羅的に対応せず、多くても2~3の要因に的を絞ることが重要(「日本版BPSDケアプログラム」より)