老化・介護 長寿 やってはいけない終末期医療

やってはいけない終末期医療(5)~寝たきりにならないための選択

やってはいけない終末期医療(5)~寝たきりにならないための選択
コラム・体験記
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延命治療に対する思い

寝たきりでも1分1秒でもいいから長く生きていたい。私はそんなことを思ったことはありません。これまで述べてきたように、延命のためだけの治療を受け続け、体を動かすことは叶わず、ただベッドの上で認知機能も衰えて死んでいくなどまっぴら御免です。

おそらく、誰もが私と同じように思っているでしょう。しかし、穏やかに死を迎える、つまり自然死(老衰死)は、この国ではなかなか叶わないのです。ただ、漫然と年を重ね、身体ともに衰えて介護が必要になって終末期を迎えると、胃ろうや人工透析で生かされるだけになります。

「生前意思」の重要性

これを防ぐには、「生前意思」(リビングウィル)を明確に示しておく必要があります。厚生労働省が推奨している「人生会議」、すなわち「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」が大事です。そこまでしなくとも、延命治療の拒否を書き留め、家族や周囲に知らせる必要があります。

私はすでに、「胃ろう」「人工呼吸」「人工透析」などを拒否すると書き留めています。

炎上したポスターが伝えたこと

かつて、タレントの小籔千豊さんを起用した厚労省の「人生会議」のポスターが炎上したことがありました。ベッドでチューブにつながれた小籔さんの姿に、「患者や家族に対する配慮がない」「不安をあおる」という批判の声が上がったのです。しかし、このときポスターに描かれた小籔さんのつぶやきは的確でした。

〈まてまてまて 俺の人生ここで終わり? 大事なこと何にも伝えてなかったわ〉
〈あーあ、もっと早く言うといたら良かった! こうなる前に、みんな『人生会議』しとこ〉

確かにその通り。終末期で意識もほとんどなくなったときでは手遅れなのです。生前意思が示されていないと、多くの家族は医者に治療を委ね、「できる限りお願いします」と言ってしまいます。医師はあらゆる手段で患者を生かすしかありません。

抱える疾患と治療の現状

私は、現在、4つの疾患を抱えています。一つは糖尿病、もう一つは狭心症。さらに、前立腺がん。そして、脊柱管狭窄症です。

糖尿病は、食事療法と血糖降下薬などの投薬療法およびインスリン注射で悪化を防いでいます。狭心症は57歳のときに最初に発症しました。このときは左冠動脈前下行枝の一部の閉塞で、ステント留置術を受けました。それから8年後、今度は左冠動脈の上部の狭窄で、開胸しての冠動脈バイパス手術。3度目は、1度目と同じステント留置術を受けました。いずれも、懇意にしていた南淵明宏医師の手術でことなきを得ました。

問題は、強度の脊柱管狭窄症による腰痛です。これは若いときに相撲をやっていたことも影響していますが、老化の典型的な症状です。現在、5分歩くと激痛が走ります。主治医はもし5メートル歩けなくなったら手術を考えましょうと言ってくれますが、腰の手術をして車椅子になった人間をたくさん知っているので、私はやりたくありません。

慎重な延命治療と緩和ケア

医者の言う通りやると、私らのような高齢者は大変な目に合うことがあります。ですから延命治療も慎重であるべきだと思っています。

人生最期のとき、自分がどんな状態になるか、そのときにどんな医療を受ければいいのか知らない人が多すぎます。終末期治療で必要なのは延命治療ではなく「緩和ケア」です。がんなどの痛みを和らげるために、鎮痛剤、モルヒネ、神経ブロック(局所麻酔の一種)などによる治療です。患者のQOL(生活の質)を重視した精神ケアも必要です。

延命治療の見直しを考える

いずれにせよ、人間らしい最期を迎えるためにはこの国の延命治療には大いに疑問があります。自分ごととして考えてみるべきです。

解説・執筆者
医師・ジャーナリスト
富家 孝
1947年大阪府生まれ。72年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。『不要なクスリ 無用な手術』(講談社)ほか著書計67冊。