老化・介護 長寿 やってはいけない終末期医療

やってはいけない終末期医療(1)~日本の延命治療を再考する

やってはいけない終末期医療(1)~日本の延命治療を再考する
コラム・体験記
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延命治療の現状と課題

医者が言うがままに、「胃ろう」「中心静脈栄養」「昇圧剤」「輸液」「気管切開」「人工呼吸」「人工透析」などの終末期の濃厚治療を受け入れると、人間らしく死ねません。ほぼ寝たきりになるだけです。

これらは、「延命治療」と呼ばれますが、「延命するだけの治療」にすぎないのです。欧米では、ただ長く生かすための治療は一般的には行われません。ところが、日本では当たり前のように行われているのです。

延命治療の影響と問題点

私は、長年このことを指摘し、「延命治療は拒否すべし」と訴えてきました。延命治療をすればするほど人間の尊厳が損なわれるからです。そして、延命治療には莫大(ばくだい)なおカネがかかり、医療費の高騰で社会福祉全体が崩壊しかねないからです。

なぜ、人間の尊厳が損なわれるのか? それは、延命治療で生かされている状況が悲惨であり、さらにその後に迎える死が、本人が望んだ死にはならないからです。

日本と欧米の高齢者施設の違い

高齢者施設の医療に携わっているので、これまで多くの死を見てきましたが、延命治療を受けた後のご遺体は見るに耐えません。

日本の高齢者施設の光景と欧米のそれはまったく違います。欧米の場合、元気な高齢者がほとんどで、スポーツをしたり、バーベキューをしたりして老後の人生を楽しんでいます。しかし、日本の場合、一部の施設を除いて 車椅子の方、寝たきりの方、あるいは認知症が進んでいる方などがほとんどです。

延命治療が生む悲惨な状況

なかでも、介護医療院は、病室に並んだベッドは胃ろうを付けたり、透析を受けていたりする患者ばかりで、人工透析器などの医療機器が所狭ましと並んでいます。透析が始まると、あちこちでピーピーピーと、血圧低下を知らせる警告音が鳴り響きます。

また、胃ろうを付けている患者は、時々暴れて胃ろうを外そうとするので、拘束バンドで両手を縛られています。尊厳を損なうどころか自由が剥奪されています。

自然死と延命治療の選択

あなたは、どのような最期を迎えるか考えたことがありますか? 延命治療をした場合、たとえば点滴で水分や栄養を注入して生かし続けると、ご遺体はぶよぶよに太って重くなります。反対に自然死、老衰死だとご遺体は(せ衰えて軽くなります。これは、自然死が「餓死」だからです。

このことを言うと、「飢えに苦しんで死ぬのはかわいそうではないか」と言う人がいますが、これは誤解です。飢えて死ぬのではなく、死に行くことを心身で自覚するので食欲がなくなっていくのです。

自然死への理解と現状

生きる力が残っていれば、自分で水を飲みます。流動食も受け入れます。それだけで1カ月以上も生き続けます。ただし、その力は徐々に衰え、やがて死を迎えます。

最近、「自然死」といううことがよく言われます。人間、与えられた寿命をまっとうして自然に死んでいくのが一番だと思われるようになってきました。この自然死とは「老衰」のことです。

尊厳死の選択肢を考える

老衰は、近年、死亡原因として増加しているとはいえ、1位「悪性新生物」(がん)、2位「心疾患」に次いで、まだ第3位に過ぎないのです。

終末期の延命治療を拒否して、「尊厳死」を選択するのは、この国の「長生き地獄」のなかで、最後に残されたただ一つの希望と言えます。

多くの人は「どう死ぬ」など考えません。しかし、「どう死ぬか」は、年を重ねるにつれ「どう生きるか」より、はるかに重要になります。

解説・執筆者
医師・ジャーナリスト
富家 孝
1947年大阪府生まれ。72年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。『不要なクスリ 無用な手術』(講談社)ほか著書計67冊。