うつ 危険がいっぱい「高齢者SNS依存症」 依存症

危険がいっぱい「高齢者SNS依存症」(5)~「老人性うつ」から自殺の引き金にも

危険がいっぱい「高齢者SNS依存症」(5)~「老人性うつ」から自殺の引き金にも
予防・健康
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これまでの診療経験から、「老人性うつ」の怖さを痛感しています。老人性うつは、高齢者が陥る典型的な精神疾患で、よく認知症と誤解されます。老人性うつの特徴は、「自分のせいで、家族や周囲に迷惑をかけている」という自責の念が強く、ときには「死にたい」と訴える危険性もはらんでいるのです。そして「スマホ依存症」の中でも、とくに「SNS依存症」が引き金となる場合があります。

老人性うつとSNS依存症

コロナ禍の2022年、お笑い芸人の上島竜兵さんと俳優の渡辺裕之さんが相次いで亡くなってショックが広がりました。ともに60代前半、まだ老人とは言えませんが、私は、メンタル的には老人性うつに陥っていたのではと考えています。背景には急拡大するネット社会があり、今も有名人であるほどSNSを通じた言われなき誹謗中傷などに晒されています。

SNS依存症による精神的影響

常時SNSを気にして依存症になると、集中力が低下し、孤独感が強まり、精神が蝕(むしば)まれます。承認欲求が強い人間、人からの評価を常に気にする人間ほど、ネット社会特有の孤独を感じてしまうのです。「いいね!」やフォロワーの数などの反応が気になり、少なければ少ないで、自分に価値がないと思い込んでしまいます。

うつ病とその診断基準

精神科では、うつ状態とうつ病は明確に区別します。うつ病と診断するのは、気分が落ち込むうつ状態が長く続いて心身共に苦痛を感じ、日常生活に支障をきたすようになってからです。

うつ病には、うつ状態がひどくなった「単極性うつ病」と、うつ状態と躁状態(軽躁状態)を繰り返す「双極性障害」がありますが、どちらの場合も、十分な休養を取ることを勧め、抗うつ薬などによる投薬治療に入ります。

日本の自殺問題と高齢者

日本は「自殺大国」と言われます。人口比による自殺者の多さはG7で一番、OECDでもトップです。日本の自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)は15.7で、アメリカを上回り、イギリスやイタリアの2倍以上です。

年間自殺者3万人(1998~2012年)という時代がありました。06年に自殺対策基本法が成立し、職場のメンタルヘルス対策が進んで、2万人程度まで減りました。ところが、20年からは再び増加に転じています。なかでも、高齢者の自殺が多いのです。

高齢者における自殺原因

厚労省のデータ「自殺の概況」(22年)を見ると、自殺者数は2万1881人で、年齢階級別に見ると、総数では「50~59歳」が4093人ともっとも多く、次いで「40~49歳」が3665人。自殺原因・動機は、60~69歳の1位は健康(56.6%)、2位が経済・生活(20%)、3位が家庭(14%)です。70~79歳では、1位が健康(68.9%)、2位が家庭(15%)、3位が経済・生活(9.4%)です。つまり、高齢になるほど健康状態を苦にして自殺しています。もちろん「こころの健康」も含まれます。

うつ病と自殺の関連

自殺にはプロセスがあります。落ち込んだ気分から「うつ状態」になり、「うつ病」を発症します。それが進行していくと「死にたい」という気持ちが高まります。実際、うつ病患者の約4割が自殺しているという調査報告があります。

スマホ依存と高齢者の自殺

アメリカでは10年代の半ばから、スマホ依存症の若者の自殺が増えて問題化しました。コロナ禍もあって、若者の自殺は日本でも増えました。しかし、最近ではスマホ依存症が高齢者にも広がり、それによる自殺が増えているのです。SNSは使い方次第で高齢者にとって孤独感を拡大させ、「老人性うつ」を引き起こすツールになっています。

解説・執筆者
明陵クリニック院長
吉竹 弘行
1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。