「父のX(旧ツイッター)を見て大変悲しくなりました。なにか事件があると、その当事者に『死ね!おまえなんか生きている価値はない』『国賊』などと平気で書き込んでいるのです」
高齢者の過激なネット投稿
クリニックに相談に来たこの方は、友人から「おたくのおとうさんは極左? 極右?」と聞かれ、初めて父親の投稿を知ったそうです。
最近、ネット上のSNSへの書き込みがエスカレートして、過激な書き込みをする高齢者が増えています。心配した家族からの相談も増えています。個人差はありますが、人は年を取るほど柔軟な思考ができなくなり単純な善悪二元論で人を判断するようになりがちです。とくにネット上では気が大きくなり、相手を「差別主義者」「極左」「極右」とレッテル貼りしてしまうのです。
SNSでの思考の硬直化
自分の発言は「絶対に正しい」と信じ、正義の活動を行っていると思っています。妄想的になっている自覚がありません。自身が共感する意見の動画や発言をコピペ(=切り取り)して、反対意見への罵詈雑言を加えて拡散しています。
しかし、こうした人は実際に会うと、むしろおとなしい方ばかり。「日本を間違った方向に導く連中は許せない」「真実を発信しないと日本はよくならない」という強い使命感を持っています。
ネット弁慶と現実のギャップ
「ネット人格」「ネット弁慶」という言葉があります。「ネット弁慶」は、ネットにおいては性格が攻撃的に変わる人のことで、普段おとなしいのにネットでは過剰に強気になる人を指します。SNSでは自分より上の人間「権力者、有名人など」を、腐(くさ)す書き込みをします。
一方、米大統領選の討論会中継を見て、「俺はトランプは嫌い。ハリスの笑いは気持ちが悪いので嫌い。こんな連中が大統領になるなら、国交を断ち、即刻、自前の核武装が必要だ」と極論を振りかざして、書き込む高齢者の家族から相談を受けたことあります。
極論と認知症の関係
医学的には、認知症になると自己抑制が効かなくなり暴言を吐く例があります。慎重に診察する必要がありますが、「元来はおとなしい性格なんです」という家族の話を聞くと、人格の変化が起きていると判断していいと思います。あるいは、認知症の進行も考えられるかもしれません。
陰謀論を信じる高齢者の中には、この世界は私たちが知らない “影の政府 ”に支配されているという自説を拡散する人もいます。精神科医の立場から言えば、パーソナリティー障害などの精神疾患を抱えている人間ほど陰謀論にはまります。
高齢者と陰謀論
孤独を抱える高齢者には、SNSに耽溺する理由があります。家族に言えば、「何言ってるの」と呆れられる考え方でも、SNSの世界ではフォロー、リポスト、リプといった反応で、「賛同」してくれる人間が数多く出現するからです。社会不安、不満が高い人ほど陰謀論にはまりやすいという調査研究があります。世界は日ごとに悪くなるという悲観が強い人ほどはまりやすいという報告もあります。
SNSと孤独の関係
Xもフェイスブックも、「AIアルゴリズム」という仕組みでユーザーの好みを分析し、自分が目にする画面(タイムライン)には、賛同する意見、同じ見方の書き込み内容が表示され続けます。これにより、ますます、自分と異なる意見を排除、攻撃するようになり、物の見方が先鋭化します。こうしてネット依存の高齢者はリアルの世界から離れていくのです。
自分と同じ見方の投稿ばかりが目につく仕組みで、先鋭化していく