認知症 老化・介護 危険がいっぱい「高齢者SNS依存症」 依存症

危険がいっぱい「高齢者SNS依存症」(1)~認識能力が低下し脳の老化が進行

危険がいっぱい「高齢者SNS依存症」(1)~認識能力が低下し脳の老化が進行
予防・健康
文字サイズ

「SNS依存症」の高齢者が驚くほど増えています。「ひとり暮らしの父親が1日中スマホをいじっていて、家じゅう散らかり放題。週1回来てもらっているヘルパーさんも困っています」と相談に来た方がいました。

高齢者に広がるSNS依存

「フェイスブック(FB)もやっています。悩みごともFB友達に話し、私たちには相談もしてくれません。いい加減にしたらと言うとすぐにキレるんです。スマホを渡したことを後悔しています」と嘆いています。

高齢者の場合、デジタル機器への“免疫”がないため、若者より熱中しやすいと言えます。すでに若い世代は、TikTokやLINE、インスタグラムが中心で、XやFBは「老人ツール」化しています。若者の場合、動画、ゲームなどに夢中になりますが、高齢者はもっぱら写真と文字によるメッセージです。

高齢者のSNS利用の特徴

だから、Xが世界中でいちばん日本で流行っているのでしょう。人口に対するユーザーの割合は米国の2倍。匿名性があり、文字制限があることが日本の高齢者に向いているのだと思います。

そもそもソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)の名の通り、社会とつながるためのツールなので、独居や孤独な老人ほどハマります。3度の食事から、見たもの聞いたこと全部投稿する人もいます。完全に「SNS依存症」です。

SNS依存症のリスク

自分の投稿への反応を常時チェックしないと気がすまなくなり、投稿材料探しのため、ニュース、トレンドなどを検索しまくります。こうなると、脳が情報過多で、集中力を維持できなくなります。度を超すと認識能力が低下し、脳の老化が進みます。

脳の老化の代表的な例は、物忘れが激しくなることです。加齢に伴って神経細胞が減少していきますが、一つ一つの細胞が活性化し、細胞同士の情報交換が活発な状態が維持できれば老化は抑えられます。実は適度なSNSにはその効果が期待できるのですが、やり過ぎるは逆効果です。

脳の老化とSNS

「SNS依存症」になると、さまざまな症状、障害が発生します。なんと言ってもひどいのは、スマホに多くの時間を費やすために、日常生活に必要な行動がおろそかになることです。やるべきことを先延ばしにして、家族や友人との約束を忘れてしまう。大事な予定に遅れるなどです。

肩こりや腰痛も出る上、心の問題も起こります。SNSをしていないと孤独にさいなまれ、うつ状態になってしまうのです。そして、最大の問題は、睡眠不足に陥ることです。睡眠時間が削られるだけでなく、自分の投稿が気になって眠れないという睡眠障害も派生します。脳や肉体の疲労回復のために重要な「ノンレム睡眠」(深い眠り)の時間が減れば、老化は加速します。

SNS依存による体と心の影響

そもそもXなどのSNSは依存症になるように設計されています。「リポスト」「いいね」や「フォロワー数」などがそうです。私たちが持っている、他者から認められたいという「承認欲求」が依存症を促進します。「ほめてもらいたい」「話を聞いてほしい」という気持ちです。

SNS依存症を引き起こすのは、生理学的には脳内ホルモンのドーパミンの作用です。ドーパミンは、好きなものを食べたとき、運動したとき、セックスをしたとき、楽しい社交的交流があったときなどに分泌されます。ドーパミンによって満足感を覚え、「またやりたい」という気持ちになるのです。

ドーパミンと依存症の関係

これを抑制することは容易なことではありません。依存症全般に言えることですが、依存症からの脱出は自分1人ではできないことが多いのです。

解説・執筆者
明陵クリニック院長
吉竹 弘行
1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。