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がんサバイバル体験記(4)~新たに食道がん発見、大きなショック受け…

がんサバイバル体験記(4)~新たに食道がん発見、大きなショック受け…
病気・治療
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再発の不安

2023年1月、十二指腸の手術では良性腫瘍と分かり、一息ついた国際医療経済学者のアキよしかわさん。それもつかの間、その同じ年の8月に術後の経過観察のために受けた上部内視鏡検査で今度は食道がんの疑いが浮上した。

「十二指腸では術後の病理検査の結果は良性腫瘍だったが、今回は2回目のがんになり、3回目の手術を受ける可能性が出てきました」と大きなショックを受けたことを振り返る。

アメリカの法律を想起

「3度目の正直ならいいけど…」。だが、アキさんは「米国の『スリー・ストライクス・アンド・ユー・アー・アウト・ロー』という法律がすぐに思い浮かびました」という。これは「三振即アウト法」と訳され、すでに2度罪を犯した人が3度目の罪を犯すと罪の重たさに関係なく、終身刑などの重い刑が科せられるという法律だという。

超早期の食道がん発見

今回の治療も、がん研有明病院(東京都江東区)を頼った。主治医の上部消化管内科副医長の山本浩之医師によると、「超早期ですが、明らかにがん化していました」と食道がんが確定した。なぜ、食道がんになったのか。

山本医師はその原因について「すべての人ではありませんが、食道がんの主なリスク因子に飲酒があります。とくに飲酒により顔が赤くなる人(フラッシャー)は、常習的な飲酒により食道がんのリスクが高くなります。受診される食道がんの患者さんの多くがこれに当てはまります」と解説する。

飲酒とがんリスク

ワインが大好きなアキさんは1つ目の大腸がん(14年に手術)の後も酒をやめなかった。十二指腸の腫瘍(23年1月に手術)では退院した日から酒を飲み始めた。

「今回は正直、心にぐさっと来ました」と言いつつ、すぐ気持ちを切り替え「ぼくはラッキーでした」とアキさん。十二指腸の術後から半年の経過観察で今回の食道がんが超早期に見つかり、治療で治る可能性が高いと言われた。これを前向きにとらえたのだ。

低侵襲な内視鏡治療

ただし、食道がんの外科手術は体にかなりの負担となる。アキさんの食道がんは超早期だったため、食道を温存する内視鏡治療が十二指腸同様に可能であった。今回はESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)が選択された。ESDでは高周波ナイフを用いて病変周囲の粘膜を切除する。食道を温存しつつ病変を切除することができる低侵襲な治療法である。

術後の回復

治療は23年11月に行われ、無事成功。「あっけないほど術後が楽でした」(アキさん)

退院後、日常生活を取り戻したが、今回も一抹の不安がもたげた。食道がんは病期のステージが初期でも、転移しやすく、怖いがんの一つといわれるからだ。今年4月、フォローアップの検査結果を聞く日がやってきた。

最終的な安心

山本医師の診察室に入ると、「根治です。転移再発の危険はありません」と言われ、「三振即アウト」という人生最大の危機を免れた。

それでも別の場所に新規に食道がんができることがあるという。「定期的な内視鏡検査を行いましょう。お酒はあまり飲まないでくださいね」と山本医師にくぎを刺された。アキさんは今度こそ、断酒を誓うのだった。
 

アキよしかわ

国際医療経済学者。1958年生まれ。65歳。米カリフォルニア大学バークレー校とスタンフォード大学で教鞭をとり、スタンフォード大学で医療政策学部を設立。米国政府はじめ、米国・欧州・アジア各地の病院のアドバイザーとして活躍。日本では「グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン」(東京・新宿)を立ち上げ会長に就任。主な著書に『日米がん格差』、共著に『医療崩壊の真実』。

執筆者
「健活手帖」 編集部