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がんサバイバル体験記(3)~最初のがんから8年後に十二指腸腫瘍発覚

がんサバイバル体験記(3)~最初のがんから8年後に十二指腸腫瘍発覚
病気・治療
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再発の不安と検査

心配していた5年後の再発はどうだったか。国際医療経済学者のアキよしかわさんは、日本で大腸がんの手術をした後、ハワイのクイーンズメディカルセンターで化学療法を実施した。大腸がんのステージ3bの5年生存率が50%(当時)と言われていたが、手術から5年後の2019年の検査では「異常なし」と診断された。「これでもう大丈夫」と安堵した。

ところが、最初のがんから約8年後の22年12月、四谷メディカルキューブ(東京都千代田区)で人間ドックを受けたところ、十二指腸がんの疑いを指摘された。

十二指腸がんの発見

十二指腸がんは上部内視鏡で胃の奥にある十二指腸を入念に観察しないと見つけづらいとされる中、「毎回お世話になっている馬場哲医師に今回は胃の奥の方まで見ていただき、がんの疑いの発見に至りました」(アキさん)

次は大腸がんの時と同じように、がん研有明病院(東京都江東区)の予約を取ろうとしたが、当時は新型コロナ禍のまっ只中。「がん研も新型コロナに対して、入院患者への面会を禁じるなど厳戒態勢をとっており、気楽には行けない状況でした」(アキさん)

新型コロナ禍での検査

それでも、年明けの23年1月の予約を取り付けた。検査では十二指腸の細胞を採取する生検が行われ、この細胞が病理検査に送られた。十二指腸に腫瘍は確認されたが、それが良性か悪性かの確定診断はつかなかった。がん治療の現場ではこれはまれに起こることだ。

悪性の可能性を放置できないので、治療を進めることになる。手術になれば、開腹手術や腹腔鏡手術、内視鏡での治療などいくつかの選択肢がある。十二指腸がんは症例が少なく、治療法も十分に確立されていない。十二指腸の腸壁が薄いこともあり、手術の際、腸壁に穴が開く(穿孔)リスクもあった。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

今回はEMR(内視鏡的粘膜切除術)が適応となった。この術式は、輪っかのような形状のスネアを腫瘍周囲にかけて、通電し切除する方法だ。

「内視鏡手術の発展はすごいものがあり、1時間たらずで終わりました。最初の大腸がんの腹腔鏡手術は術後の負担がかなりありましたが、それに比べると今回の術後はとても楽でした。外科手術ではなく、早期だったためEMRが適応となったのは、とてもラッキーでした」とアキさんは振り返る。

転移の可能性と診断結果

その一方で「最初の大腸がんの転移なのか」と疑問も残った。転移性のがん(悪性腫瘍)だと、再び他の臓器に転移する恐れがあるという。

術後の病理診断では、幸いながら腫瘍は悪性(がん)ではなく、良性(腺腫)だと診断された。がん研有明病院上部消化管内科副医長の山本浩之医師が解説する。

「今回の十二指腸の腫瘍は原発性(元の腫瘍)です。大腸と十二指腸は小腸をはさみ、同じ消化器系で近くにあります。しかし、アキさんの十二指腸腫瘍は内視鏡上の見た目的にも病理による細胞の顔つき的にも、最初の大腸がんからの転移ではありませんでした」

術後の経過と元気な姿

退院後は1週間安静にするように言われた。しかし、「痛くもかゆくもない。医師から『ダメ』と言われていましたが、帰ってすぐに家でワインを少し飲みました」とアキさん。その後、周囲に元気なところを見せたくてワインを飲むことも。大好きな酒がまさかの結果を招くことに…。

写真:クイーンズメディカルセンターのポール・モーリス医師(左)、 パット・イナダさん(右) とアキさん

アキよしかわ

国際医療経済学者。1958年生まれ。65歳。米カリフォルニア大学バークレー校とスタンフォード大学で教鞭をとり、スタンフォード大学で医療政策学部を設立。米国政府はじめ、米国・欧州・アジア各地の病院のアドバイザーとして活躍。日本では「グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン」(東京・新宿)を立ち上げ会長に就任。主な著書に『日米がん格差』、共著に『医療崩壊の真実』。

執筆者
「健活手帖」 編集部