手術したら「生活の自由度」が上がる
鼠径ヘルニアの手術を受けた患者さんから、「お腹のふくらみを気にせず過ごせるようになった」「トイレが楽になった」「温泉や銭湯に行けるようになった」などの話をよく聞きます。みなさんに共通しているのは「生活の自由度が上がった」ということです。
私は長年、消化器外科医として鼠径ヘルニア治療に携わってきましたが、こうした患者さんの声は何よりうれしいものです。連載の最後は、手術後の注意点と治療後の暮らしについてお伝えします。
術後、痛みを感じたら
手術中は全身麻酔で眠っている状態のため、痛みを感じることはありません。痛みを感じ出すのは手術の後。そのため、基本的に病院では内服の痛み止めと、内服薬だけでは足りない場合に使用する坐薬を処方することが多いのです。
といっても、手術後の痛みは「筋肉痛程度」の人がほとんど。しかし、人によってはズキズキと痛むこともあるため、「痛みを感じたら薬を使う」ようにしましょう。中には「もっと痛くなってから使おう」と思う人もいらっしゃいますが、痛みのマックスは手術直後。薬を適切に使用していただければと思います。
定期検診を欠かさず
手術翌日からは運転も湯船につかるのも可能になり、3日後からは、ほぼ普段通りの生活に戻ります。「痛みもないし、大丈夫だろう」と思ってしまいがちですが、1週間後の受診は術後の経過が良いか診るためのものですので、必ず受けましょう。その際にはおへその創のチェックと、鼠径部の超音波検査を行います。問題なければ、手術直後に貼った防水シールをはがして終了です。
このとき、ふくらみが大きかった人は脱腸の部分に水が溜まったり腫れたりすることがありますが、これは体液なので問題ありません。徐々に体に吸収されていくため、いずれキレイに消えていきます。
その後、術後の経過が順調なら1カ月、6カ月、1年のタイミングでそれぞれ定期検診に来ていただきます。同じく傷のチェックと鼠径部の超音波検査を行います。また、対側発症といって、手術を受けた逆の鼠径部に新たに鼠径ヘルニアが発症することがあります。人間は左右対称にできていますので、片方に発症した人は、もう片方にも発症しやすいわけです。術後の受診時には、この対側発症もしっかりとチェックします。何事も早期発見・早期治療が大切です。
再発率は極めて低い
鼠径ヘルニアの再発率は極めて低く、学会の発表では腹腔鏡を用いた手術の再発率は1%以下と言われています。当院でも、6500症例のうち3例だけ再発が見つかりました。この方々は鼠径ヘルニアの大きさが子供の頭くらいほどあり、さらに手術後重い荷物を運んだり早期に激しい運動をした結果、再発してしまったようです。
このように再発リスクは限りなく少ないですが、前述のように反対側が鼠径ヘルニアになる確率が高いです。反対側に新たに発症した場合は「再発」ではありません。セルフチェックは欠かさないようにしましょう。