手術せず放置すると怖い
これまで3回にわたって鼠径ヘルニアの病気の特徴などをお伝えしてきましたが、今回は具体的な治療内容についてお話しします。前に述べたように、鼠径ヘルニアは手術でしか根治できません。「手術は怖そう」「術後が心配」といった声もありますが、むしろ手術をしないで放置する方がよっぽど怖いのです。延べ6500症例以上の鼠径ヘルニア手術を行ってきた私が、手術~退院までの流れを解説します。
どんな手術なの?
鼠径ヘルニアの手術は、お腹の壁に開いた穴を「補強」するのが目的です。そのため、お腹を切って腸を切除したりつなぎ合わせたりといった複雑な施術は行いません。だからこそ基本的に「日帰り」で行うことが可能なのです。
現在は手術の方法も大きく進歩しており、「腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術」が普及してきています。この方法には大きく分けて「腹腔内アプローチ(TAPP法)」と、「腹腔外アプローチ(TEP法)」の2つがあります。それぞれの説明はここでは省きますが、当院ではTEP法を進化させた「SILS—TEP法」(単孔式TEP法)を採用しています。
他と大きく違うのは、通常はお腹に3カ所の穴を開けて手術操作を行いますが、おへその中を1カ所開けるのみで手術が可能だという点です。体への負担が少ないのが大きな特長と言えるでしょう= 図参照 。
確定診断から手術まで
では、鼠径ヘルニアの確定診断がついてから、手術まではどんな経過をたどるのかひとつずつみていきましょう。
①病状の説明・手術の同意
緊急手術が必要な状態でないと確認したら、鼠径ヘルニアの病気の説明と現在の症状、そして手術の必要性をお話しし、同意をいただきます。
②手術日程の確定
手術の日程を決めます。仕事が忙しくならないよう事前の調整を行う人もいます。
③術前検査
手術からさかのぼって1カ月以内に1度、術前検査を行います。血液検査、胸部X線検査、心電図、呼吸機能のチェックのほか、高齢の方などの場合、心臓が全身麻酔に耐えられるかを調べる場合もあります。
④手術前日~当日
手術前日も特に制限はありません。ただ、お食事は22時までにすませていただきます。全身麻酔を行うため、当日は朝食を抜きます。手術の3時間前までは水、お茶のみ飲んでも大丈夫です。手術予定時間の約30分前に来院いただき、服を着替えて手術室に向かい手術が始まります。
手術~退院。数時間後から通常モードに
手術は腹腔鏡と呼ばれる器具を用いて行います。おへその中を2センチほど切り、そこから鉗子や腹腔鏡を通して手術を行います。平均すると手術時間は1時間以内で終了します。その後、2時間ほど休んでから帰宅となります。手術直後は車などの運転、激しい運動、湯船につかるのは厳禁ですが、そのほかはOK。アルコールを避ければ飲食も普通にできます。