放っておけば悪化する
長年、消化器外科医として鼠径ヘルニアの治療に当たってきた私ですが、鼠径ヘルニアを疑う患者さまから「放っておけば治りますか?」と質問された際、「鼠径ヘルニアは、虫歯と同じ。放っておけば悪化してしまいます」と答えています。そう、鼠径ヘルニアは放置しても治りません。そこで今回は、鼠径ヘルニアの病気の特徴を4つお伝えしたいと思います。
自然治癒はしない
手術でしかよくならない鼠径ヘルニアは、自然には決して治りません。腹壁の一部が開いてしまう病気で、一度開いた穴は自然に閉じることはないからです。悲しいことにそのことを知らない医師も多く、「痛くなったら治療すればいい」と思っている人も一部いるようです。
事実、定期健診などで発見されることはまれです。触診で、下着をずらして鼠径部まで診察することはまずないからです。さらに、診察台で横になるとヘルニア部分が自然と引っ込んでしまうため、なかなか発見しづらいという特性もあります。
ヘルニアバンドなどでもよくならない
通販サイトなどでは、鼠径ヘルニアをサポートする目的でヘルニアバンド(脱腸帯)が販売されています。簡単に装着でき、一見するとふくらみが押さえられているように見えます。
しかし、このようなヘルニアバンドはおすすめできません。お腹から体表に向かって真っすぐ出てくる腸ばかりではなく、鼠径管を通って屈曲して出てくるものもあります。つまり、体表からやみくもに押さえ込んでしまうと腸が変に曲がり、血流が悪くなり、最悪の場合、腐ってしまうこともあるのです。
ヘルニアバンドを使用した人を診察すると、鼠径部から患部にかけて血行が悪く、皮膚がどす黒くなっていたり、皮膚炎を起こしていたりする場合もあります。ヘルニアバンドで根本的な解決はできないのです。
予防はできない
鼠径ヘルニアの一番の原因は「加齢」と言われています。とくに40歳を過ぎた男性は注意が必要です。そのほか、肥満や重い荷物を運ぶことが多い人、よく咳こむ人などもリスクが高まると言われています。
しかし、だからといって「必ずなる」とも言えないのがこの病気です。「なるときはなる」「ならないときはならない」。したがって、残念ながら予防法もありません。あえて「なりやすい人」を挙げるならば、前立腺がんの手術を受けた人です。前立腺がんの手術をした人は、かなりの頻度で鼠径ヘルニアになっています。
また、強いて注意すべきことを挙げるなら、トイレで力みすぎないこと、重い荷物を一気に持ち上げないことなど「腹圧をかけない生活」を心がけることです。
多くは日帰り手術で治る
セルフチェックやご家族からの指摘によって鼠径ヘルニアだと判明しても、落ち込むことはありません。ほとんどの場合、日帰り手術で治るからです。