日本で一番罹患者数を増やしているのは「前立腺がん」
日本人男性がかかるがん—と聞いて、どの臓器にできるがんを思い浮かべるだろう。ピロリ菌の保菌者の減少で胃がんは減少傾向。同様にウイルス性肝炎の感染者の減少により肝がんの罹患者数も減っている。ならば大腸がんか、と思うかもしれないが、じつは現在、日本で一番罹患者数を増やしているがんは「前立腺がん」なのだ。
その前立腺がんについて、病気の仕組みから最新治療までを丁寧に解説した“患者のための教科書”が登場した。『名医に聞く「前立腺がん」の最新治療』(PHP研究所刊、1650円)で、著者は東海大学医学部腎泌尿器科学領域主任教授の小路直医師=写真=だ。
腫瘍マーカー導入で早期発見が飛躍的進化
前立腺がんは早期では自覚できる症状がないため、以前はなかなか見つけられない病気とされていたが、21世紀に入る頃からPSA(前立腺特異抗原)という精度の高い腫瘍マーカーの導入が進み、飛躍的に早期発見が進んだ。
小路医師は、「増加している前立腺がんについて、国民のみなさんに知っていただきたい。特にPSA検診の有用性について、正しい知識を多くの人に持ってもらうこと、そして新しい治療方法について知ってほしいという思いから書きました」と語る。
最新の検査法や治療法をイラストで解説
特に検査法と治療法については、画像上でがんと疑われる所見がある場合、高精度にがん組織を採取できる「核磁気共鳴画像—経直腸的超音波画像融合画像ガイド下前立腺生検(ターゲット診断)」や、超音波を収束させてがん組織に当てることでがんを焼灼する「高密度焦点式超音波療法(HIFU=ハイフ)」など、著者自身が旗振り役となって普及を進める最新の検査法や治療法を、豊富なイラストを用いて解説している。
HIFUは、外科的手術のように性機能に影響を及ぼすことなくがんを無力化できることから、いま特に注目されている治療法だ。
毎年1万人以上が死亡、正しい知識が重要
「自身のステージ、悪性度によって、治療方針が異なることを知ってほしい。また、前立腺がんの治療をするとどのような影響が出やすいのか、などの基本的な知識を持ってもらえると、治療法の選択などの際に役立ちます」と語る著者。
前立腺がんで死ぬことはない—と誤った知識を持つ人も少なくない。実際には毎年1万人以上がこの病気で命を落としている。そうならないためには、この病気と検査法、治療法についての正しい知識を持つことが何より重要となる。
「実際に前立腺がんと診断された方はもちろん、家族や血縁者に前立腺がん患者を持つ方、60歳以上の男性にも、ぜひ目を通してほしい」と著者は訴える。
平易な文章だが、そこで得られる情報は多い。一読を強くお勧めする。
日本で「男性のかかるがん」罹患者数の順位
- 前立腺がん:9万1215人
- 胃がん:8万9331人
- 大腸がん:8万7019人
- 肺がん:8万2880人
- 肝がん:2万6576人
※2020年7月更新版「全国がん統計による全国がん罹患データ」による。数値は2017年の結果