歯を失う最大原因「歯周病」
歯は全部で前歯が8本、犬歯が4本、臼歯が16本で28本です。みなさん全部そろっていますか。歯を失う病気は虫歯(う歯)と歯周病です。そして年を取ってから歯を失うのは、歯周病が大半です。
歯周病の原因は、歯垢と呼ばれる細菌です。歯垢は、歯磨きが不十分な部分に付着するネバネバした黄白色の粘着物です。歯垢は食べかすではなく、70%が細菌、残りが細菌の産生した多糖類です。この歯垢1グラム中に10億個以上の細菌がいます。皮膚の常在菌の数は1万個以下ですから、これはすごい数です。やはり口の中にはいつも細菌の好物である食べかすがあるということですね。
歯石は歯科医でなければ取れない
この歯垢はいくら歯を磨いても、歯磨きの後、数時間で増えてきます。歯垢が唾液中のカルシウムや細菌の死骸と一緒に固まると、歯石になります。歯垢は歯ブラシで取れますが、歯石はもはや歯ブラシでは取れません。この歯石が歯の周りにたまりっぱなしになると、いわゆる虫歯ができます。歯石は歯科医にかかって、取ってもらわなければなりません。
歯周病にもやはり歯垢が関係しています。歯周病は、虫歯と違って、歯の磨き方の問題に加えて、喫煙や肥満などの口腔内環境の悪化、老化、糖尿病による免疫能の低下、歯垢の中の細菌叢(そう)の変化などが関係しています。
歯周病は慢性疾患
歯と歯ぐきの間の隙間を歯肉ポケットと言います。この歯肉ポケットが深くなると、そこでは酸素濃度が下がり、歯磨きで残存した歯垢がさらにポケットの中で増えた時、酸素を嫌う嫌気性菌が多く発生します。歯肉ポケットは徐々に深くなっていきます。深くなった歯周ポケットには、嫌気性菌がはびこり、身体にとって実に厄介な問題を引き起こします。
増えた嫌気性菌は歯肉に攻撃を仕掛けて身体の中に侵入しようとします。これが歯肉炎の段階で、歯周病のはじまりです。歯肉からの出血・発赤・腫れなどは、炎症所見です。歯垢は歯周ポケットの中に潜り込み、嫌気性菌はどんどん歯周組織を破壊し炎症を繰り返します。歯周病が起こるということは、口の中で常に炎症が続いているということです。すなわち歯周病は慢性疾患です。
歯周病菌の血管侵入が動脈硬化の原因
歯周病菌は歯肉から血管内へと侵入し、菌血症を起こし、心臓に炎症を起こしたり動脈硬化の原因にもなります。脳梗塞の原因となる頸動脈の動脈硬化巣の中から歯周病菌がよく発見されます。また、歯周病菌は、誤嚥により気管支から肺にたどり着くものもあり、高齢者の死因である誤嚥性肺炎も引き起こします。
歯周病は以前から、糖尿病の合併症の一つと言われてきましたが、糖尿病の人はそうでない人に比べて歯周病にかかっている人が多いという疫学調査が多数報告されています。歯周病菌のひとつP.g菌(Porphyromonasgingivalis)がもつジンジパインというタンパク質分解酵素はアルツハイマー病の引き金をもつ可能性が示唆されています。さらに歯周病のある人では、一般の術後の感染症の率も高いという報告があり、周術期の口腔内検査はどこの病院でも必須になっています。
歯周病は歯の本数を減らします。普段から柔らかくて甘いものを避け、野菜を多く食べ、そして歯周病にならないように定期的に歯科医に通う習慣を持つことが、脳梗塞や認知症にならない秘訣です。