睡眠・不眠 脳神経外科疾患を知る

脳神経外科疾患を知る(4)~更年期後の女性襲う深刻な「いびき」と「睡眠時無呼吸症候群」

脳神経外科疾患を知る(4)~更年期後の女性襲う深刻な「いびき」と「睡眠時無呼吸症候群」
病気・治療
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更年期後の女性はいびきをかく

隣で寝ている異性が大きないびきをかいたら、100年の恋もさめてしまいますね。いびきは男性特有のものと思っている人は大勢いると思いますが、「私の妻はいびきがうるさいので、一緒には寝ない!」という声も聞こえてきそうです。いびきをかくのは更年期後の女性で、若い女性は、いびきをほとんどかかないのも真実です。

だとすると、女性のいびきの原因は女性ホルモンの減少が疑われます。一見関係がなさそうですが、実は女性ホルモンといびきには深い関係があります。女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンがあります。女性らしさの源はエストロゲンですが、プロゲステロンの働きの一つに、「上気道開大筋」という、気道(空気の通り道)を支える筋肉を活性化させるというものがあります。女性ホルモンの分泌が多い年代の女性は、この働きのおかげでいびきをかかないのです。

女性ホルモンがいびきを抑えている

一方、男性は、女性ホルモンの分泌が少ないため、気道を支える筋肉が弱りやすく、特に眠ると筋肉が弛緩(しかん)し空気の通り道が狭くなってしまいます。そして太っていて気道が狭い場合、酔って泥酔している場合には筋弛緩作用のためにさらに気道が狭くなり、いびきをかきやすくなります。睡眠中、狭い気道で無理やり呼吸している状態が「いびき」の正体です。

もともと声帯の隙間は狭く声門と言われています。肺から出た空気は狭い声門を通るときに声帯が振動して、ボーという小さなブザーのような音が発生します。これを喉頭原音と言います。この喉頭原音が喉頭腔、咽頭腔、口腔、鼻腔を通るときに共鳴して声を作ることになります。喉頭原音が狭くなった共鳴腔で強く共鳴したのがいびきです。女性でも、閉経を境にプロゲステロンの量は減少します。その影響で、呼吸がしづらくなったり、いびきをかくようになったりしてしまう人が増えるのです。

肥満で気道が狭くなり、睡眠時無呼吸症候群に

また、ホルモンバランスはちょっとしたストレスでも乱れてしまいます。仕事が忙しいとき、ストレスが溜まっているとき、いびきをかいてしまう人もいるようです。

一部の男性では、いびきとともに呼吸が止まってしまい、30秒ほどしてからまた大きないびき呼吸を繰り返すという人がいます。呼吸が止まるのは、気道が狭くなるだけでなく塞がってしまうためです。多くの場合、肥満で脂肪が蓄積して気道が狭くなり、仰向けで寝ることによってさらに気道が狭くなるからです。

睡眠中に10秒以上呼吸が止まる状態を無呼吸と言い、無呼吸が1時間に5回以上繰り返す場合を睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断します。

無呼吸で低酸素続くと生活習慣病併発

睡眠中に無呼吸がくり返し起きると、身体は低酸素状態となります。無呼吸に伴う低酸素状態が年余(1年あまり)にわたって続く場合に、心臓・血管系の病気や多くの生活習慣病を併発してきます。たいていの場合、SASには肥満が関係していて、すでに生活習慣病を持っている場合が多いので悪化することになります。生活習慣病にSASがプラスされると睡眠不足、日中の眠気や倦怠感は必発であり、いずれ脳梗塞発症ということになります。

SASそのものの治療は、マウスピースの使用、CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)が行われます。もし、生活習慣病がなく、いびきをかくだけであれば、抱き枕の購入、そして枕を抱いてエビ体形で寝ることをおすすめします。

解説・執筆者
脳外科医
氏家 弘
脳外科医。岩手医科大学卒業、東京女子医大で研修を積んだ後、2009~2017年、東京労災病院、脳神経外科部長。その間、脳神経外科手術と医工連携による医療機器の開発に没頭。2019年から氏家脳神経外科内科クリニック(東京・紀尾井町)院長を務め、鎌ケ谷総合病院でも手術を執刀する。