頭痛 心臓・心疾患 脳・脳疾患 脳神経外科疾患を知る

脳神経外科疾患を知る(3)~不整脈で脳塞栓症の危険

脳神経外科疾患を知る(3)~不整脈で脳塞栓症の危険
病気・治療
文字サイズ

動悸には不整脈、足下のふらつきにはフレイルの怖れ

駅で階段を3階まで軽い足取りでトントンと上がれますか。3階まで上がるときに動悸がしたり、足下がふらつくことはありませんか。動悸には発作性心房細動という不整脈が隠れていることがあります。ふらつきには筋力低下によるフレイル(虚弱)が始まっている可能性があります。

心房細動、2種類の特徴

心房細動には2種類、慢性心房細動と発作性心房細動(Paf)があります。慢性心房細動の多くは診断がつき、服薬をしている場合が多いと思いますが、問題はPafです。Pafは普段は全く正常に心臓が動いているのに、突然心臓が200近く拍動し、口から飛び出てきそうになります。そして脈拍は、いつもと違って不規則に乱れています。

Pafが起きると左心房がけいれんしている状態になり、そのため左心房から十分な血液が左心室へと流れなくなります。その結果、左心室から大動脈へと流れる血流が極端に減ってしまいます。普段は1回の心拍動で50~70mlの血液が流れ出しますが、30ml以下になることもあります。30ml
の心拍出量では血圧は下がり、足下はふらつき、意識も失います。

普段は正常…なのに発作性心房細動

しかし、Pafはこのように重症にならずに軽い発作ですぐに治ってしまうこともあります。そのような場合には病院に行って心電図などを検査しても正常と判断されてしまいます。普段は正常であるところがPafの怖いところなのです。

Pafが1日以上続くと、左心房の中に血栓ができてしまいます。この血栓が問題です。通常の血管内にできる血栓と違って、心房内でできる血栓は1センチを超えるくらい大きいのです。この血栓が心房から剥がれて、左心室、大動脈、そして脳へ行く内頸動脈へと流れると、内頸動脈の太さはせいぜい5ミリなので、内頸動脈に血栓がつまってしまいます。これが脳塞栓症です。

タイムリミットは2時間

脳にまったく血液が流れなくなると、脳の神経細胞は3分で死んでしまいます。しかし、実際は片方の内頸動脈が詰まっても、もう一方の内頸動脈から血液が遠回りをして流れてくるので(側副血行路)、2時間くらい神経細胞は生きているようです。すなわち、2時間以内に詰まった血栓を取り除かなければ神経細胞は死ぬと言うことになります。

脳塞栓を発症してから2時間以内に病院へ行き、脳塞栓症の診断をして、血栓を上首尾に取り除くのは至難の業。やはりなんとか脳塞栓症を起こさないようにする必要があります。

発作性心房細動を未然に防ぐ

その方法は2つあり、Pafを起こさないようにアブレーションという血管内外科手術を行う方法と、Pafが起きても心臓内に血栓が起きないように抗凝固剤を飲む方法です。Pafを抑える薬は今のところありません。アブレーションは日本ではその技術が非常に進歩していて、合併症は0.1%以下で治癒率は80%近い状況です。

また一度で効果が出ないときには、複数回のアブレーションが必要な場合もあります。抗凝固剤は何種類もあるのですが、血液凝固因子の阻害剤であるXa因子阻害薬が最も使われています。Xa因子阻害薬の半減期は短いので、効果の少ない時間に血栓ができないようにオメガ3を同時に服用することが肝です。

Pafは心臓への負担がかかるとき起きやすいと言われています。すなわち、過労、心配事は避け、過度の飲酒も厳禁です。運動は脈拍数が120を超えない有酸素運動が最適です。

解説・執筆者
脳外科医
氏家 弘
脳外科医。岩手医科大学卒業、東京女子医大で研修を積んだ後、2009~2017年、東京労災病院、脳神経外科部長。その間、脳神経外科手術と医工連携による医療機器の開発に没頭。2019年から氏家脳神経外科内科クリニック(東京・紀尾井町)院長を務め、鎌ケ谷総合病院でも手術を執刀する。