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【ベストセラー健康本】『介護のことになると親子はなぜすれ違うのか』

【ベストセラー健康本】『介護のことになると親子はなぜすれ違うのか』
予防・健康
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親の介護への向き合い方を教えてくれる

子供の世話にはなりたくない、自分でまだまだできるのに…。親子や家族ゆえに介護の距離感が難しい。そんな悩みに、「わたしの看護師さん」代表の神戸貴子さん=写真、竹林正樹・青森大学客員教授、鍋山祥子・山口大学経済学部教授が、それぞれの専門的見地と自身の経験から親の介護への向き合い方を教えてくれるのが、『介護のことになると親子はなぜすれ違うのか』(Gakken刊、1650円)である。

ノーベル賞の行動経済学理論を使う

本書では、人々が自分自身にとってより良い選択が自発的に取れるようなきっかけを与える「ナッジ理論」で介護を説いている。ノーベル経済賞を受賞して有名になった行動経済学の理論だ。

わかっていてもなかなかできない「認知バイアス」をうまくコントロールさせて、親の介護が穏やかな関係の中で行えるよう、具体的なやりとりを中心に解説している。

具体的なやり取りは?

具体例はこうだ。

①「要介護認定を受けてみる?」と聞いたら怒り出した→マッサージチケットをプレゼントして、あとからこれが介護サービスの訪問リハビリだと説明する。

②デイサービスといえばお遊戯という先入観がある→行けば周りの人も勉強になる、他人のために役立つと伝える。

③泥棒に通帳を盗まれたと主張する→否定をせず、「一緒に手がかりを探そう」と提案するなどしながら理性を取り戻させる。

正論を避け、自尊心を刺激しない

正論をなるべく避け、言い合いにならないようにちょっとした視点や言い回しを、自尊心を刺激させないよう、「ナッジ」に基づいて変化させることで、相手の受け取り方は大きく異なってくるという。親子だからこそ、いっそう正論が正解ではないことに気づかされる。

この本の役割について聞くと、神戸さんら著者3人が連名でコメントを寄せてくれた。

具体的事例でわかりやすい

「『介護は家族がするもの』という固定的な価値観に苦しんでいる家族の気持ちを解放するため、介護に悩んだ経験を持つ看護師、行動経済学者、社会学者が自身の経験とエビデンスをもとに書籍を執筆しました。多くの読者の方から『具体的事例があるのでわかりやすかった』『介護の悩みが軽くなった』と感想をいただきました。介護に直面しているすべての人に読んでほしいです」

親の介護に取り組んでいる人、これから訪れるであろう人、もしかしたら介護に関わらなくとも親子のよりよいコミュニケーション法としても、さらにいえばさまざまな円滑な人間関係にだって参考になるかもしれない1冊だ。

高齢者によく見られる認知バイアス

  • 損失回避バイアス:損失を極度におそれる心理
  • 現状維持バイアス:現状維持を好む心理
  • 投影バイアス:過去の状況を将来に同じようにあてはめて考えてしまう心理
  • 自信過剰バイアス:自分に関することを高く評価する心理
  • 楽観性バイアス:根拠なく楽観視する心理

(※本書から抜粋)

執筆者
ジャーナリスト
田幸 和歌子
医療ジャーナリスト。1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。「週刊アサヒ芸能」で健康・医療関連のコラム「診察室のツボ」を連載中。『文藝春秋スーパードクターに教わる最新治療2023』での取材・執筆や、健康雑誌、女性誌などで女性の身体にまつわる記事を多数執筆。