糖尿病の人の認知症リスクは2倍
65歳以上の7人に1人が認知症になると推計されているが、ある日突然、発症するわけではない。長い月日をかけて脳は徐々に萎縮する。
「中年期の生活習慣病は認知症のリスクを上げます。たとえば、正常な人を1とした場合、糖尿病の人は、アルツハイマー病認知症のリスクは約2倍になります」
こう指摘するのは、筑波大学附属病院認知症疾患医療センター部長の新井哲明教授。厚労省科学研究「認知症医療の進展に伴う社会的課題の検討のための研究」研究代表者として、さまざまな課題に取り組んでいる。
軽度認知障害を早期に発見・治療へ
「生活習慣病の改善や、運動療法、認知トレーニングなどによって、認知症の発症リスクを低下させることは、世界の潮流となっています。日本でも、食生活の見直しなどで、認知症の前段階の軽度認知障害(MCI)にとどまる人が増えています。その人たちをどう支えるかも新たな課題といえます」
軽度認知障害の人は、物忘れなどの認知機能の低下はあるものの、日常生活は自立できる。進行抑制のために運動療法や食生活の見直し、認知機能トレーニングを積極的に行う地域もあれば、経過観察のみになっていた地域もあった。
その軽度認知障害の人も対象になる新薬「レカネマブ」が発売され、状況が変わった。レカネマブの治療によって軽度認知障害の進行が抑制されるため、治療薬の早い段階での使用が望まれているのだ。
施設、自治体連携で進行を予防
「レカネマブは、2週間に1回の点滴治療が必要になります。ただし、副作用として脳の微小出血やむくみなどが起こることがあり、MRI(核磁気共鳴画像)検査を受けることも必要になります」
つまり、軽度認知障害の新たな薬は、副作用について半年に1回など、MRIのある施設で検査を受けなければならない。
また、薬だけでなく、食生活の見直し、運動療法や認知トレーニングなどの進行予防を行うことも大切になる。
「認知症患者の推計は、10年前の予測よりも減っていますが、軽度認知障害の患者さんは増えています。この方々を支えるには、大きな病院とクリニックとの連携に加え、介護施設や自治体の連携体制も必要になります」
簡便な診断支援ツールと新薬で治療を進める仕組みを
新井教授が勤務する認知症疾患医療センターは、地域包括支援センターや茨城県との連携を強化してネットワークを構築し、定期的な会議も開催して課題に向き合っている。それを全国的にいかに広めていくか。
新井教授は、その進展に奮闘している。
「私たちは簡便な診断支援ツールを開発し、新薬などで進行抑制の治療法も確立されています。患者さんがいかにスムーズに治療を受け、軽度認知障害の方が自立した生活を続けられるか。就労支援も必要になると思います。課題は多いです」
医学の力で認知症への進行を阻むことは可能になったが、社会的に支える仕組みが追いついていない。そのことを念頭に置きつつ、認知症も早期発見・早期治療が大切なことを覚えておきたい。