認知症 治療・最新治療 AIツールで変わる認知症治療

AIツールで変わる認知症治療(5)~医学の力に社会の仕組みが追いつくように

AIツールで変わる認知症治療(5)~医学の力に社会の仕組みが追いつくように
病気・治療
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糖尿病の人の認知症リスクは2倍

65歳以上の7人に1人が認知症になると推計されているが、ある日突然、発症するわけではない。長い月日をかけて脳は徐々に萎縮する。

「中年期の生活習慣病は認知症のリスクを上げます。たとえば、正常な人を1とした場合、糖尿病の人は、アルツハイマー病認知症のリスクは約2倍になります」

こう指摘するのは、筑波大学附属病院認知症疾患医療センター部長の新井哲明教授。厚労省科学研究「認知症医療の進展に伴う社会的課題の検討のための研究」研究代表者として、さまざまな課題に取り組んでいる。

軽度認知障害を早期に発見・治療へ

「生活習慣病の改善や、運動療法、認知トレーニングなどによって、認知症の発症リスクを低下させることは、世界の潮流となっています。日本でも、食生活の見直しなどで、認知症の前段階の軽度認知障害(MCI)にとどまる人が増えています。その人たちをどう支えるかも新たな課題といえます」

軽度認知障害の人は、物忘れなどの認知機能の低下はあるものの、日常生活は自立できる。進行抑制のために運動療法や食生活の見直し、認知機能トレーニングを積極的に行う地域もあれば、経過観察のみになっていた地域もあった。

その軽度認知障害の人も対象になる新薬「レカネマブ」が発売され、状況が変わった。レカネマブの治療によって軽度認知障害の進行が抑制されるため、治療薬の早い段階での使用が望まれているのだ。

施設、自治体連携で進行を予防

「レカネマブは、2週間に1回の点滴治療が必要になります。ただし、副作用として脳の微小出血やむくみなどが起こることがあり、MRI(核磁気共鳴画像)検査を受けることも必要になります」

つまり、軽度認知障害の新たな薬は、副作用について半年に1回など、MRIのある施設で検査を受けなければならない。

また、薬だけでなく、食生活の見直し、運動療法や認知トレーニングなどの進行予防を行うことも大切になる。

「認知症患者の推計は、10年前の予測よりも減っていますが、軽度認知障害の患者さんは増えています。この方々を支えるには、大きな病院とクリニックとの連携に加え、介護施設や自治体の連携体制も必要になります」

簡便な診断支援ツールと新薬で治療を進める仕組みを

新井教授が勤務する認知症疾患医療センターは、地域包括支援センターや茨城県との連携を強化してネットワークを構築し、定期的な会議も開催して課題に向き合っている。それを全国的にいかに広めていくか。

新井教授は、その進展に奮闘している。

「私たちは簡便な診断支援ツールを開発し、新薬などで進行抑制の治療法も確立されています。患者さんがいかにスムーズに治療を受け、軽度認知障害の方が自立した生活を続けられるか。就労支援も必要になると思います。課題は多いです」

医学の力で認知症への進行を阻むことは可能になったが、社会的に支える仕組みが追いついていない。そのことを念頭に置きつつ、認知症も早期発見・早期治療が大切なことを覚えておきたい。

解説
筑波大学医学医療系教授
新井 哲明
筑波大学医学医療系教授、筑波大学附属病院精神神経科長、認知症疾患医療センター部長。医学博士。1990年、筑波大学医学専門学群卒。東京都精神医学総合研究所主任研究員などを経て2016年から現職。厚労省科学研究「認知症医療の進展に伴う社会的課題の検討のための研究」研究代表者。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。