アルツハイマー型認知症の進行抑制を世界で初めて実現
認知症の最大原因となっているアルツハイマー型認知症では、昨年12月、「レカネマブ」という新たな薬が発売された。
アルツハイマー型認知症は、アミロイドβというタンパク質が脳にたまり、神経細胞が死滅する。アミロイドβを減少させる作用があるのが「レカネマブ」だ。アルツハイマー型認知症の進行抑制を実現した世界初の薬として、注目を集めている。
「アルツハイマー病にはこれまで4種類の治療薬がありましたが、アミロイドβに作用するのはレカネマブが初めてです。投与後のPET(陽電子放射断層撮影)検査では、蓄積したアミロイドβの半数以上は取り除かれ、認知機能が低下するスピードも緩やかになりました」
こう話すのは、筑波大学附属病院認知症疾患医療センター部長の新井哲明教授。患者の診断・治療はもとより、描画や音声、視線による認知症の早期診断・原因の鑑別診断の支援ツールの研究も行っている。
タウを作れなくする新しい治療薬の開発も
「臨床試験では、アミロイドβを取り除くことで、レカネマブは、軽度認知障害や軽症のアルツハイマー型認知症の進行を平均半年間は遅らすことができました。早い段階で適切な治療を受けることが、進行抑制でより重要になっているのです」
早期にアミロイドβを取り除くことができれば、神経細胞の死滅を防ぐことが可能になる。ただし、レカネマブだけでアルツハイマー型認知症を治すのは難しい。アルツハイマー型認知症は、神経細胞内にタウというタンパク質が蓄積することも関わる。レカネマブでアミロイドβを取り除くことができても、神経細胞内のタウの蓄積が続くことで、病気が進行するのだ。
「タウのメッセンジャーRNA(遺伝子情報源)に結合し、タウを作れなくするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)が米国で開発され、新しい治療薬として有望視されています。近い将来、タウにアプローチする薬の登場で、さらに認知症治療は変わる可能性があります」
AIで発見、レカネマブ早期適用へ
レカネマブで進行を遅らせている間に、タウに対する新薬が発売されれば、アルツハイマー型認知症の克服に近づける可能性がある。そのためにも重要になるのが、認知症の早期発見・早期治療だ。しかし、現在の認知症の診断は、検査が大がかりで時間もお金もかかる。気軽に受診できるとはいいがたい。
受診をちゅうちょしている間にアルツハイマー型認知症が進行し、中等症と診断されるとレカネマブの対象外になる。レカネマブの適用は、軽度認知障害や軽症のアルツハイマー型認知症だからだ。
「私たちは、AI(人工知能)を活用し、描画や音声、視線で、軽度認知障害やアルツハイマー型認知症、レビー小体認知症の診断支援ツールを開発しました。クリニックの先生や介護施設などでも扱える簡便なツールです。早期発見に加え、レカネマブなどの治療の評価にも活用できる可能性があります」
早期発見・早期診断に役立つAIの診断支援ツール、新薬の登場で、認知症の診断・治療を変えるべく、新井教授は奮闘中だ。