筋トレ 長寿 健康長寿の秘訣に迫る

健康長寿の秘訣に迫る(4)~筋トレで糖尿病を予防できる可能性

健康長寿の秘訣に迫る(4)~筋トレで糖尿病を予防できる可能性
予防・健康
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健康長寿芸能人の共通点は筋トレ

芸能界のシニア世代で元気に活躍している代表選手に俳優の吉永小百合さん(79)や歌手の郷ひろみさん(68)が挙げられる。この2人に共通していることは、90代の健康を見据えたかのように、“筋トレの王様”と呼ばれるスクワットをはじめ、数々の筋トレや水泳などに積極的に取り組んでいることだ。主演映画「九十歳。何がめでたい」=写真=が話題の草笛光子さん(90)もパーソナルトレーナーによるトレーニングを行っているという。

90代でも筋トレを

筋トレを始める年齢はそれぞれだが、「90代でも身体上や健康上、問題がない人は筋トレをしていただきたい。その際、重要なのは科学的根拠に基づいた筋トレをすることです」と、早稲田大学スポーツ科学学術院の澤田亨教授は話す。

今年1月には、澤田教授が策定に向けた研究班代表を務めた厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が発表された。

同ガイドでは高齢者向けには筋トレを週に2~3回することが望ましいと推奨した。その効果の一つに転倒防止があるという。

太ももの筋肉が弱ると転倒の危険も

「高齢になると、体の前側の筋肉である太ももや腹筋などが弱くなりがちです。太ももの筋肉が弱れば、足腰を支える力が弱ります。足を上げる力が弱まれば、少しの段差でもつまずきます。その時、太ももの筋肉が弱まっていれば、体を支えられず、転倒する恐れがあります」(澤田教授)

高齢者が転倒して骨折すると、その時は助かってもあれよあれよと衰弱し、短期間で死亡することも。不慮の事故による死因の割合では、転倒・転落・墜落が26.5%で死因の第1位という厚労省のデータもある。

筋トレの効果はこれだけにとどまらない。

週30~60分の筋トレ実施で病気・死亡リスク減

「厚労省の研究班が筋トレと疾病、死亡との関連を調査した海外の論文を解析した結果、筋トレを実施していると、総死亡・心血管疾患・全がん・肺がん・糖尿病のリスクが10~17%低い値を示し、総死亡・心血管疾患・がんについては週30~60分の筋トレ実施時間で最もリスクが低く、糖尿病は実施時間が長いほどリスクが低い値を示していました」

やせた女性は筋トレで2型糖尿病を予防できる!?

筋トレと糖尿病の関係について、澤田教授は、フィットネスクラブの入会者を5年間追跡して、入会後の2型糖尿病の発症率を比較した研究を実施した。その結果、フィットネスクラブの入会時にやせていた人はそうでない人と比較してトレーニングの効果が著しいことが判明した。「つまり、やせている女性は筋トレによって筋肉をつけることで2型糖尿病を予防できる可能性があるということが示されたのです」と澤田教授。

なぜ、そのようなことが起こるのか。それは、食事などで摂った糖分を身体に取り込む先は肝臓だけでなく、筋肉が重要な取り込み先になっているというメカニズムに関係する。

ただし、筋トレを行う際は、個人の特性や能力に合わせて実施する“個別性の原則”が重要だ。今回のガイドが強調している身体活動実施のポイントは「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む。今よりも少しでも多く身体を動かす」ことだ。「無理のない範囲で少しずつ足腰を鍛えていくことが大切です」と澤田教授は話している。

解説
早稲田大学スポーツ科学学術院教授
澤田 亨
1983年、福岡大学体育学部卒業。順天堂大学大学院体育学研究科修了。博士(医学)。東京ガス、国立健康・栄養研究所室長を経て2018年、早稲田大学スポーツ科学学術院教授に就任。体力と健康に関する研究に従事。
執筆者
「健活手帖」 編集部