一人暮らし後期高齢者でも「充実した日々」
神奈川県在住の神山まさ子さん(90)は、夫が他界し、長男や長女はそれぞれ独立して別居している。現在、このような一人暮らしの後期高齢者は多いのではないか。行政用語では独居老人という冷たい響きもあるが、神山さんは毎日、充実した日々を送っているという。
旺盛な好奇心
インタビューしてみると、長寿の理由の一つは、その旺盛な好奇心にあるのではないかと思った。孫が遊びに来れば、パソコン上でゲームの手ほどきを受け、のめり込む。
「新しいことに敏感なのかもしれませんね。毎日、新聞を読み、新しい情報に目を通すのが習慣となっています」
そう話す神山さんは、かつてソニーで半導体の組み立て業務に20年にわたって従事した。好奇心の強さは、独創的な新商品を世に出したソニー時代に培われたのかもしれない。
推し活…羽生結弦から大谷翔平へ
“推し活”もしていて、推しメンはフィギュアスケートの羽生結弦選手から大リーグの大谷翔平選手に変わったそうだ。「大谷くんの活躍は大きな楽しみで、心の張りとなっています。写真を部屋の中に飾ったりしています」(神山さん)
早稲田大学スポーツ科学学術院の澤田亨教授は「スポーツ観戦は楽しさや喜びを私たちに与えてくれ、その結果として主観的幸福感や精神的健康度、主観的活力感、精神的QOL(生活の質)をより高めるのではないかと考えています。神山さんは大谷選手を通じて認知機能を向上させたり、ゆううつになる機会を少なくしているだけでなく、心を震わせ、人生を豊かにしているかしれません」と分析する。
座骨神経痛、脊柱管狭窄症から“復活”
神山さんは、80代からスマホも自在に操ってきた。写真を撮ってLINEで送ることもできる。取材で質問しても、即答のテンポで次々に答えが返ってくる。ただ、数年前に身体上の危機があったそうだ。
座骨神経痛や脊柱管狭窄(きょうさく)症を患い、家の中でも這(は)って歩くことを余儀なくされた。「これで人生も終わりかと思いました」と神山さん。それでも懸命にリハビリをして、徐々に回復。「現在は週1回、介護保険の訪問看護のプログラムで看護師さんに来ていただき、自宅マンションの近くを30分ほど、歩いています」
足腰は元気に暮らすための土台
厚生労働省は2024年1月に「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を公表し、「今よりも少しでも多く身体を動かす」ため歩くことを推奨する。同ガイドの策定に向け研究班代表を務めた澤田教授は「足腰は元気に暮らすための土台です。看護師さんが来ない日も今よりも少しでも多く身体を動かすことを心がけることが望まれます」と助言した。
神山さんの介護保険の区分は要支援2だ。訪問の看護師が血圧と体重の計測など体調管理をしている。神山さんは糖尿病と高血圧症もあり、整形外科だけでなく内科にも定期的に通っている。
趣味の編み物で手先を使う
もう一つの長寿の秘訣は、趣味の編み物だ。手先を使うと、脳の活性化につながるとされる。
「若いころから編み物をやっています。夏はレース編み、冬は毛糸編みです。ベストを編んだり、円形の敷物を編んだりしています」と神山さん。出来上がった作品は近所の人にプレゼント。これが、コミュニケーションにもつながっているようだ。