コロナ・感染症 死の危険「ダニ媒介脳炎」

死の危険「ダニ媒介脳炎」(5)~日本中に生息するマダニからいかに体を守るか

死の危険「ダニ媒介脳炎」(5)~日本中に生息するマダニからいかに体を守るか
病気・治療
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マダニから感染発症する「ダニ媒介脳炎」はこれまで感染発症者は北海道内に限定されてきた。だが、「おひげせんせいのこどもクリニック」(札幌市)理事長でダニ媒介脳炎に詳しい米川元晴医師は「道外でも感染リスクは十分にある」と警鐘を鳴らす。その理由と有効な対策を聞いた。

ダニ媒介脳炎の感染報告が現在、北海道に限定される理由は、日本の医療提供体制にある—と米川医師は指摘する。

「北海道では日本脳炎を媒介する蚊がいないと考えられてきたため、最初から日本脳炎を除外して診断することでダニ媒介脳炎の疑いが浮上しやすいこと。そして道外にダニ媒介脳炎の知識を持つ医師が極めて少ないこと—の2点です」

しかし、マダニは日本全国どころか全世界に広く分布しており、北海道以外で感染しても不思議ではない。というより、実際には感染者は出ているのだろうと米川医師は推測する。

「ダニ媒介脳炎のウイルスが日本脳炎ウイルスと同じグループに属することから、日本脳炎と誤診されるか、“原因不明”として処理されているケースが一定数あると思われます」

脳炎が疑われる症状の時、一般的な血液検査ではダニ媒介脳炎と診断することはできない。この病気を突き止めるには、専門の検査機関に血液や髄液を送って検査してもらう必要がある。つまり、検査をする時点で、医師がダニ媒介脳炎を疑っていないと確定診断は困難なのだ。

ちなみに日本脳炎のワクチンを打っていても、ダニ媒介脳炎ウイルスには効果はない。ダニ媒介脳炎対策としては、専用のワクチンを接種しておくほかに有効な予防法はないのが実情だ。

「オーストリアでは、以前は年間1000人以上のダニ媒介脳炎の感染発症者が出ていたが、小児にワクチンの定期接種を実施したことで劇的にその数を抑え込むことに成功している。マダニは日本中の草むらに普通にいることを考えると、積極的な予防策を講じる必要性があると思います」

ちなみに世界的に見て好発地域のロシアでは、ワクチン接種率が低いこともあって、いまも年間1万人近くの感染発症が報告されているというから、「たかがワクチン」と甘く見るのは危険だ。

日本で今年承認されたダニ媒介脳炎ワクチン「タイコバック」は、ウイルスの毒性を無くした不活化ワクチン。小児では一部で発熱のリスクが報告されているが、他に重篤な副反応はない。

「このウイルスの特徴として、親のマダニから子のマダニ(卵)にウイルスが移行する—という点が挙げられます。普通は親の感染だけで終わるものなのですが、子供に垂直感染するのは珍しいケースと言えます」

そうした珍しい現象や、医療制度の網をくぐり抜けて人間を脅かすダニ媒介脳炎ウイルス。いま重要なことは、一人でも多くの人が、このウイルスと感染症の存在を知識として持っておくこと。そして、積極的な予防策を講じることなのだ。

ダニ媒介脳炎の効果的な予防法

  • ワクチンを接種する
  • 草むらに入るときは長袖、長ズボンを着用
  • マダニが付着しにくい表面がつるつるとしたナイロンなど化学繊維の服を着る
  • 犬の散歩の後は、犬にマダニが付いていないかよく点検する
  • マダニに効果がある防虫剤を使う

もしマダニに噛まれたら

  • 無理に引き抜かずに医療機関で処置してもらう
  • マダニに噛まれた後に発熱などの症状が出たときは、ためらわず医療機関を受診し、必ず医師に「マダニに噛まれた」ことを申告する
解説
おひげせんせいのこどもクリニック理事長
米川 元晴
おひげせんせいのこどもクリニック理事長。1999年、北海道大学医学部卒業。同大医学部小児科関連病院勤務ののち、多摩ガーデンクリニック、南大沢メディカルプラザ小児科院長。2010年から現職。日本小児科医会学術教育委員副委員長。北海道小児科医会副会長。札幌市小児科医会副会長。日本小児科学会専門医。日本渡航医学会認定医療職ほか。
執筆者
医療ジャーナリスト
竹中 秀二
学生時代から食品業界の専門紙でアルバイト原稿を執筆。大学卒業後は出版社に勤務し、児童向け書籍や学術誌の編集を担当。その後フリーとなり、新聞、雑誌で医療健康関連の取材を重ねる一方、医療や芸能関連書籍の企画・編集・取材・執筆を行う。