コロナ・感染症 死の危険「ダニ媒介脳炎」

死の危険「ダニ媒介脳炎」(3)~犬の散歩時も要注意

死の危険「ダニ媒介脳炎」(3)~犬の散歩時も要注意
病気・治療
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感染発症すると最悪死に至り、命は救えたとしても麻痺や言語障害などの重い後遺症が出ることが多い「ダニ媒介脳炎」。北海道から本州への“上陸”も心配されるこの感染症を防ぐにはどうすればいいのかを、札幌市豊平区にある「おひげせんせいのこどもクリニック」理事長・米川元晴医師に解説してもらう。

「ダニ媒介脳炎」は「日本脳炎」とウイルスのタイプが似ており、感染発症後の病気の推移もよく似ている。そして、一度発症してしまうと、効果的な治療法が無いことも、この二つの病気には共通している。

それだけに「感染予防」の重要性は高まるのだが、対策はあるのか。米川医師は言う。

「マダニは山間部の草むらに、普通に生息しています。そのため林業や農業の従事者、あるいは釣り人やハンターなど、山に入る人はハイリスクといえるでしょう。ただ、彼らは“肌を覆う服装”を励行している。それよりも危険なのが、レジャーで山に入る人です。半袖や短パンなど肌の露出が多い服装で山に入って、キャンプなどを楽しんでいると、マダニの被害に遭いやすい」

北海道では近年、都市部や住宅地でのクマの出没情報が相次いでいる。それだけ人里と山間部の距離の近さを示しているということもでき、マダニが人間に近いところにいることを示唆してもいる。

「道内の森林公園に棲むアライグマを調べたところ、高い確率でダニ媒介脳炎ウイルスの抗体を持っていることがわかりました。このウイルスは人間以外でも哺乳類なら感染する可能性があります」

そこで注意したいのが「犬の散歩」だ。米川医師によると、散歩から帰ってきた犬のお腹などにマダニが付いていることがあるという。これが家の中に入って人間に噛みつけば、感染発症の温床となってしまう。

対策はあるのか。

「マダニは血を吸うことが目的で取り付くので、人間が草むらに入るときは、長袖、長ズボン、厚手の靴を履いていれば感染のリスクは大幅に下げられます。動くものに取り付く習性があるので、服に付くことはあるものの、肌を服で覆っていれば噛まれることはない。ただ、近年は北海道も夏は気温が30度を超えることが増え、“長袖・長ズボン”が現実的ではなくなってきています」

特に道外から北海道に遊びに行った観光客が、北海道の広々とした平原に感動して半袖・半ズボンのまま寝転ぶ光景は珍しくない。これはじつに気分のいいものだが、マダニにとって「格好のエサ」となっていることを心得ておくべきだろう。

米川医師はこう警鐘を鳴らす。

「理想を言えば、道外から北海道に遊びに行く人、特に屋外でのレジャーを楽しみたい人は、ダニ媒介脳炎ワクチンを接種しておいてほしい—というのが私の本音です。これからの時期は山菜取りで山に入る人も増えますが、これも特に要注意です」

発表されているダニ媒介脳炎の感染発症者の数は現状では少ないが、実際には「原因不明」として処理されている症例が少なくない数、存在するとみられているだけに、警戒は必要だろう。

解説
おひげせんせいのこどもクリニック理事長
米川 元晴
おひげせんせいのこどもクリニック理事長。1999年、北海道大学医学部卒業。同大医学部小児科関連病院勤務ののち、多摩ガーデンクリニック、南大沢メディカルプラザ小児科院長。2010年から現職。日本小児科医会学術教育委員副委員長。北海道小児科医会副会長。札幌市小児科医会副会長。日本小児科学会専門医。日本渡航医学会認定医療職ほか。
執筆者
医療ジャーナリスト
竹中 秀二
学生時代から食品業界の専門紙でアルバイト原稿を執筆。大学卒業後は出版社に勤務し、児童向け書籍や学術誌の編集を担当。その後フリーとなり、新聞、雑誌で医療健康関連の取材を重ねる一方、医療や芸能関連書籍の企画・編集・取材・執筆を行う。