コロナ・感染症 死の危険「ダニ媒介脳炎」

死の危険「ダニ媒介脳炎」(2)~北海道以外にもリスク拡大か

死の危険「ダニ媒介脳炎」(2)~北海道以外にもリスク拡大か
病気・治療
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北海道で病気の感染発症例が相次いでいる「ダニ媒介脳炎」。北海道以外でも決して他人事ではない事態になりつつあるこの病気について、「おひげせんせいのこどもクリニック」(札幌市)理事長の米川元晴医師に聞く。

ダニ媒介脳炎とは、ダニの中でも「マダニ」が媒介することで人間が感染し、発症する脳炎のこと。よくハウスダストなどのアレルギーの原因となる「イエダニ」よりも大きなダニで、成虫だと3~8ミリ程度だが、血液を吸って満腹になると15ミリ程度まで膨らむ。

マダニの生息域は北海道に限らず日本全国、いや全世界に広く分布している。その証拠に、やはりマダニが媒介となる感染症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)という病気は、主として西日本を好発エリアとしているのだ。

一方、いま流行が心配されているダニ媒介脳炎の感染発症症例が確認されたのは、1993年以降で、今年確認された2例を含む7例すべてが北海道。その背景を米川医師が解説する。

「ダニ媒介脳炎のウイルスは、ウイルス学的に見たときに日本脳炎ウイルスと同じグループに分類されます。事実、ダニ媒介脳炎の感染者も、血液や髄液を調べると日本脳炎の抗体価が高まっているのです。しかし、北海道には日本脳炎ウイルスを媒介する『コダカアカイエカ』はいないとされてきたので、日本脳炎も発生しないはず。そのため、蚊ではなくマダニから感染するダニ媒介脳炎を疑う素地がまだあったということ。とはいえ、道内でもダニ媒介脳炎について知識を持つ医師は少なく、この病気に詳しい一部の医師が限定的に見つけ出しているに過ぎない—というのが実情です」

症状としては、ダニに噛まれて感染してから約1週間の潜伏期間を経て、まずインフルエンザのような発熱があり、頭痛や全身痛に襲われる。重症化するとけいれん発作や意識障害が現れ、最悪の場合は命を落とす。また、たとえ命は救えても麻痺などの重篤な後遺症が出ることが多く、現状では効果的な治療法はない。

こうした「感染以降の流れ」も日本脳炎とよく似ていることから、実際はダニ媒介脳炎であるにもかかわらず、日本脳炎、あるいは「原因不明」として処理されているケースが少なくないのではないか—と米川医師は推測するのだ。

「日本脳炎ウイルスとダニ媒介脳炎ウイルスは『フラビウイルス』という仲間同士の関係ですが、日本脳炎のワクチンを打っていてもダニ媒介脳炎の予防にはなりません」

これまでのところ、北海道内だけで感染発症例が報告されているダニ媒介脳炎だが、いまとなっては北海道だけの問題では済まされない状況に来ている—と米川医師は警鐘を鳴らす。

「日本脳炎のワクチンがダニ媒介脳炎の予防効果を持たないうえに、道内と道外の行き来が頻繁になったいま、感染リスクは道外の人にも十分にある。しかもマダニは本州にも当たり前に生息しているので、道外で感染するリスクも普通にあるはず。なのにこの病気についての知識を持つ医師が圧倒的に少ない現状は、きわめて危険といえるでしょう」

SFTSウイルスを媒介するタカサゴキララマダニ (上) とフタトゲチマダニ (国立感染症研究所提供)

 

解説
おひげせんせいのこどもクリニック理事長
米川 元晴
おひげせんせいのこどもクリニック理事長。1999年、北海道大学医学部卒業。同大医学部小児科関連病院勤務ののち、多摩ガーデンクリニック、南大沢メディカルプラザ小児科院長。2010年から現職。日本小児科医会学術教育委員副委員長。北海道小児科医会副会長。札幌市小児科医会副会長。日本小児科学会専門医。日本渡航医学会認定医療職ほか。
執筆者
医療ジャーナリスト
竹中 秀二
学生時代から食品業界の専門紙でアルバイト原稿を執筆。大学卒業後は出版社に勤務し、児童向け書籍や学術誌の編集を担当。その後フリーとなり、新聞、雑誌で医療健康関連の取材を重ねる一方、医療や芸能関連書籍の企画・編集・取材・執筆を行う。