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皮膚がん引き起こす「水虫」放置してはダメ!

皮膚がん引き起こす「水虫」放置してはダメ!
病気・治療
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皮膚がんの一種メラノーマと水虫の関係

夏は日光を避けることも大切だが、水虫を放置しないことも重要になる。強い紫外線を浴び続けると皮膚がんになりやすいことはよく知られている。さらに、皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)は、なんと水虫と関係が深いことが新たに明らかになった。水虫とメラノーマの関係を発見した東京慈恵会医科大学附属病院皮膚科の延山嘉眞教授に直撃取材し、注意すべきことを詳しく聞いた。

メラノーマの最大原因は紫外線、という通説

メラノーマとは、肌のメラニン色素を作るメラノサイトが悪性化するがんのことである。皮膚の奥にがんが広がると、リンパ節転移や遠隔転移によって命に関わる。メラノーマは皮膚科領域の病気で亡くなる人の約6割を占め、今もって重大な病気だ。このがんの最大の原因として紫外線を浴びることが、長年、世界の通説とされてきた。

実際、紫外線への感受性が高い白色人種は、それ以外の人種よりもメラノーマの発症頻度が高く、紫外線に曝露した腕、脚、胴体、顔にできる人が多い。ところが、日本のメラノーマ事情は少し異なる。

日本人は紫外線の当たらない足の裏にメラノーマ

「日本人は、紫外線が当たりにくい足の裏にメラノーマが生じる割合が高いのです。かかとや母趾球(ぼしきゅう=親指の下の膨らんだところ)など荷重部位での発症頻度が高いため、靴などによる物理的な刺激が誘因と考えられてきました」

こう話す延山教授は、皮膚がんの診断・治療を長年行い、メラノーマの患者も数多く診ている。

原因は水虫? メラノーマ患者に明らかに多い

「足の裏に対する物理的な刺激なら、陸上選手のように足を酷使している人の発症リスクが高くなるはずです。しかし、実際はそういう報告はあまりありません。別の理由もあるのではないかと考えたときに、足の裏のありふれた病気・水虫が関係するのではないかと思ったのです」

延山教授らは、足の裏のメラノーマを有する患者30例(メラノーマ群)と、メラノーマ以外の足の病気を有する患者84人(非メラノーマ群)の足の裏を顕微鏡で検査した。すると、メラノーマ群は60%、水虫になっていることがわかった。非メラノーマ群は、水虫の症状で受診した患者も含まれていたが、水虫になっていたのは約30%。メラノーマ群の方が圧倒的に水虫になっている人が多かったのだ。この研究論文は、今年5月、国際学術雑誌に掲載された。

免疫や炎症が関係?

「水虫がどのようにメラノーマに関与しているか、詳細については今後、さらなる研究を進めたいと思っています。現時点での仮説としては、免疫や炎症を介したメカニズムが、水虫とメラノーマの関係に寄与しているのではないかと考えています」

延山教授による興味深い仮説を見ていこう。

【仮説1】水虫が炎症を介して腫瘍免疫を低下させる可能性

紫外線を浴びると、体内で活性酸素が増えてシワやシミが生じやすい。細胞の遺伝子も傷つけられることで皮膚がんも生じやすいと考えられている。真夏の強い紫外線を避けるために、外出するときには日焼け止めや日傘などによる日よけ対策は欠かせない。

一方、水虫菌は紫外線とは異なり、皮膚の表面に繁殖するカビの一種だ。皮膚の奥に入り込んで、メラノサイトの遺伝子を変える力を持つほど強力な敵とは考えにくいが…。

水虫の慢性化で免疫が働かない

「ひとつの仮説として、水虫が慢性化していると、足の裏に炎症が広がった状態が続くことになります。本来、体にとっての異物は、免疫細胞によって排除されますが、水虫が慢性化していると、免疫が上手く働けない環境になっている可能性があるのです」

水虫は、医学用語では白癬(はくせん)という(※本記事では水虫記載に統一する)。水虫を引き起こすカビの一種・水虫菌(白癬菌)が皮膚の表面の角質(ケラチン)で繁殖し、足の指の間がふやけたり、足の裏に水ぶくれが生じたり、足の裏全体が硬くガサガサするなど、さまざまな症状を引き起こす。

水虫が腫瘍免疫を抑えている

毎日入浴を欠かさずに行っていても、長時間、革靴や長靴、安全靴などを履いていると、気づいたときには足の裏に水虫菌が繁殖していることは珍しくはない。

「特に足の裏の皮膚の抵抗力が低下していれば、水虫菌の感染が成立し、水虫になります。そして、水虫が免疫機能をさらに攪乱(かくらん)し、がんの芽を封じ込める腫瘍免疫の働きが抑えられてしまうのかもしれません」

がん細胞は、正常な細胞の遺伝子変異によって生じる。遺伝子変異は、毎日、誰にでも起こりえるが、免疫細胞が排除することでがん化を防いでいる。しかし、加齢や病気など、何かしらの理由で免疫機能が上手く働かなくなると、遺伝子変異した細胞を排除することができず、がん化へとつながる。

水虫菌が角質層で生き延びるには、異物を敵とみなす免疫は邪魔になる。仮に邪魔な免疫を自己に有利に操作する仕組み、あるいは免疫からの攻撃をかいくぐる仕組みがあれば、それに便乗して遺伝子変異を有する細胞が増え、メラノーマにつながる可能性を秘めているのだ。

がんと炎症は深い関係

炎症ががんに関係する例としては、胃がんがある。胃がんはピロリ菌感染が最大の原因といわれる。ピロリ菌は胃に炎症を引き起こし、胃の粘膜が変性する萎縮性胃炎が胃がん発生のリスクとされる。

加えて、胃から食道へ逆流した胃酸による慢性的な食道炎として知られる逆流性食道炎は、食道がんのリスクになる。

また、大腸に慢性的な炎症が起こる潰瘍性大腸炎は、大腸がんの発生リスクを上げる。さらに、歯肉炎や虫歯による慢性炎症は、口腔がんや舌がんのリスクにもなる。

このように、炎症とがんは深く関係しているのだ。

「水虫菌は繁殖して長期間にわたる炎症が続くことが想定されます。メラノーマと直接関係があるかは、まだわかりませんが、長期の炎症が起こっているところには、他の細菌やウイルスも繁殖しやすいことが考えられます。いずれにしても、水虫を放置するのは良くありません」

【仮説2】水虫とメラノーマが成立する共通の因子がある可能性

「もうひとつの仮説として、水虫とメラノーマをどちらも惹起(じゃっき)する共通する因子が考えられます」

水虫は感染症、メラノーマは腫瘍だが、どちらも免疫によって抑えられる。免疫が低下している状態では、どちらの病気にもなりやすいかもしれないのだ。実際、免疫機能が低下しやすい糖尿病では、特定のがんや感染症のリスクが増加することが知られている。

【仮説3】メラノーマによる免疫低下を介して水虫が成立しやすくなる可能性

「仮説1とは逆に、先にメラノーマがあり、そのせいで局所の免疫が攪乱されたために、水虫になりやすい可能性も想定する必要があります」

水虫菌もメラノーマ細胞も免疫監視機構が邪魔であることに変わりない。だから、仮説1の逆、すなわち、メラノーマが先行する可能性も考えられるのだ。

水虫菌はカビの一種ゆえに、高温多湿で繁殖しやすい。国内では5人に1人、爪にまで水虫菌が繁殖した爪水虫(爪白癬)は10人に1人と推計されている。そして、知らぬ間に水虫になっている人も少なくない。

「水虫は必ずしもかゆみの症状を伴いません。足の裏がガサガサしたり、指の間がふやけて皮がむけても、かゆみの症状がないために水虫と気づかないケースがあるのです」

かゆくなければ、足の裏が少々ガサガサしていても気にしない人もいるかもしれない。だが、この“状態”がよくない。入浴したときに足の裏もしっかりと洗ってチェックしよう。

市販薬で治療すると検査で菌が見つからない

水虫を見つけたらどうするか。とくに夏になると、ドラッグストアに水虫コーナーが設けられ、さまざまな薬が並べられている。医療用薬を市販薬にしたスイッチOTC水虫治療薬も売られている。

なかなか治らなくなってから、ようやく重い腰を上げてく皮膚科クリニックを受診する人もいるだろう。このパターンがよくないという。

「皮膚科では、採取した角質を顕微鏡で見て水虫菌の有無を調べます。市販の水虫治療薬を使用した後に受診すると、水虫菌が少なくなっていて、医師が水虫ではないと判断することがあります」

水虫を見つけたらまず皮膚科で検査を

水虫菌が検出されない病変に対しては、ステロイド外用薬が処方されることも多い。しかし、ステロイド外用薬を塗った部分では免疫が抑えられるため、水虫菌が隠れていると増殖の後押しをしてしまうことがあるのだ。そのため、「水虫の市販薬を使ったけどよくならない」という患者の訴えは、医師の診断を悩ますことになる。

「水虫かな? と思ったら、最初に皮膚科を受診して、水虫かどうか正しい診断を受けるのがベストです。もうひとつ、水虫のせいでかかとがガサガサしたときに、尿素クリームだけを塗っても根本治療になっていないので注意しましょう」

かかとのガサガサがひどいときも受診を

硬くなったかかとに尿素クリームを塗ると、角質層がとれてやわらかくなる。夏のサンダル履きなどでかかとが気になるときに使うこともあるだろう。水虫が潜んでいる状態で尿素クリームを使用しても対症療法にしかならない。

「かかとのガサガサがひどいときには、自己判断せずに、クリニックの皮膚科で診てもらった方がよいと思います」

足の異変について自己判断は禁物と心得よう。

中年以降にほくろのようなものが出たら要注意

さて、メラノーマに話を戻すが、足の裏をよく見たらほくろのようなものに気づいたときの対処法を覚えておきたい。ほくろと勘違いしてメラノーマを放置すると、命に関わる事態につながることもあるのだ。

「中年以降にほくろのようなものが新たに出てきたら、クリニックの皮膚科へ行きましょう。『ダーモスコピー検査』で、がんか否かすぐにわかります。白色人種はメラノーマを発症しやすいので、新たなできものが生じるとすぐに医療機関を受診する傾向が見られます。ですが、日本人は無頓着な人も多い。新たにほくろのようなものに気づいた早い段階で受診しましょう」

ほくろとメラノーマの違いは

ほくろと異なりメラノーマでは、①形の非対称②黒い部分の境界が不明瞭③色が多彩(濃淡があるなど)④6ミリ以上の大きさ、などの所見がみられることが多い。しかし、「中にはこれらの条件にあてはまらないメラノーマもあるので、一度皮膚科への受診をお勧めします」と延山教授はアドバイスする。

メラノーマは全身に生じる。足の裏をよく見ることに加え、背中など見にくいところも要注意だ。中には、孫と風呂に入り、「背中に新しいほくろができているよ」と指摘されて皮膚科を受診し、メラノーマの早期発見・早期治療につなげた人もいるという。

メラノーマも早期発見・治療を

「メラノーマも、早期発見・早期治療で克服が可能です。早期発見であれば、患部を切除する手術で済むこともあります。また、進行がんであっても、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬によって、近年、予後はだいぶ改善されつつあります。見慣れないほくろのようなものを見つけたら早めに受診していただきたいと思います」

この夏、足の異変は見逃さないように気をつけよう!

(延山教授提供)
メラノーマとほくろの違い(延山教授提供)


 

延山嘉眞(のべやま・よしまさ)

 

東京慈恵会医科大学皮膚科学講座教授。医学博士。1998年、東京慈恵会医科大学卒。国立がんセンター研究所、東京慈恵会医科大学皮膚科学講座講師、同准教授などを経て2021年から現職。

執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。