うつ 糖尿病 栄養素 「亜鉛欠乏」で起こる病気と対策

「亜鉛欠乏」で起こる病気と対策(5)~適量厳守、過剰摂取は銅欠乏症にも

「亜鉛欠乏」で起こる病気と対策(5)~適量厳守、過剰摂取は銅欠乏症にも
病気・治療
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食事からの亜鉛吸収率は30%程度

男性の4割以上は、体内の亜鉛が足りていないと報告されている。病気になると、亜鉛欠乏症になる確率も上がる。そんな亜鉛の疫学研究を行う順天堂大学医学部総合診療科学講座の横川博英先任准教授に、予防法について話を聞いた。

「牡蠣やレバー、牛肉などに亜鉛は多く含まれます。しかし、それらを食べても、全ての亜鉛の含有量を吸収できるわけではありません。体内での亜鉛の吸収率は30%程度で、吸収効率は決して高くはありません」

亜鉛の1日平均摂取推奨量は、成人男性で1日11㎎、成人女性で8㎎。たとえば、真夏においしい岩牡蠣を5個食べることができれば、推奨量を上回る亜鉛を体内に取り入れることは可能だ。とはいえ、実際はその量の30%程度しか、吸収できないのだという。

吸収率を上げる食べ方と下げる食べ物

「ビタミンCやクエン酸は亜鉛の吸収を助けます。岩牡蠣にレモンやカボスなどをかけて食べると、より亜鉛の吸収率を上げることが期待できます」

一方、穀類や豆類などに含まれるフィチン酸は、亜鉛の吸収を抑制するという。玄米や豆類を多く食べていると、亜鉛の吸収率が悪くなる可能性がある。

「毎食ごとに玄米だけ食べるなど、ひとつの食材に偏るのがよくありません。白米も食べるなどバランスのよいメニューを心掛けましょう。その上で、岩牡蠣などの亜鉛を多く含む食材を活用するとよいと思います」

サプリメントは用法容量を守る

食品だけで十分な亜鉛をとるのが難しいときには、サプリメントを活用するのも一考。「30%」という吸収率の悪さを知ってしまうと、ついサプリをたくさん飲みたくなるが…。

「亜鉛は取りすぎるのもよくありません。亜鉛が多くなりすぎると体内の銅の吸収が抑制されてしまうのです。サプリメントを活用するときには、用法用量を守ってください」

処方薬の確認が重要

亜鉛を長期間過剰に取り続けると、微量元素の銅の吸収が抑制されて体内で減少し、銅欠乏症を引き起こす。血液の赤血球が減少して貧血、白血球も減って感染症にかかりやすくなり、神経が損傷することもあるという。亜鉛欠乏も、亜鉛を過剰に取りすぎて銅欠乏症になるのも、どちらもよくない。バランスが大切だ。一方、現在持病で処方されている薬の種類の確認も大切になる。

「医療機関に処方される薬の副作用でも、亜鉛欠乏症に陥ることがあります。たとえば、うっ血性心不全のむくみなどで処方されるスピロノラクトンやフロセミドは、副作用として亜鉛欠乏症を起こすことが、専門医では知られています」

糖尿病やうつ病の薬にも注意

糖尿病やうつ病の薬などにも、亜鉛欠乏を来して味覚障害との関連が報告されているものもあるという。食生活を見直すと同時に、自分の服用している薬が亜鉛欠乏症に関係していないか、知っておこう。

「主治医から副作用の話を聞いている人は、食事の中で亜鉛をより意識しましょう。また、処方された薬の副作用がわからないときには、薬を処方した調剤薬局で聞くとよいと思います」

いずれにしても、適量の亜鉛が健康のために欠かせないことを覚えておこう。
 

解説
順天堂大医学部総合診療科学講座先任准教授
横川 博英
順天堂大学医学部総合診療科学講座先任准教授。博士(医学)。1996年、群馬大学卒。東京女子医科大学糖尿病センター、福島県立医科大学医学部公衆衛生学講座講師などを経て2018年から現職。日本内科学会認定総合内科専門医、日本糖尿病学会認定専門医・指導医、日本高血圧学会認定専門医・指導医、日本公衆衛生学会認定公衆衛生専門家。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。