亜鉛不足は症状が認識しづらい
日本人は、亜鉛不足の潜在性亜鉛欠乏(60~79μg/dl)の人が、男性で46%、女性は約38%いると報告されている。また、病気で医療機関を受診した人では、病気と位置づけられる亜鉛欠乏症(60μg/dl未満)が、男性で約37%、女性で約33%と高頻度である。
「亜鉛は、人体にとって重要な微量元素なので、不足するとさまざまな症状に結びつきます。ただし、お腹が痛い、熱が出たなど、はっきりとした症状に現れません。特定の症状が認識しづらいため、患者さんも医師も、悩ますことがあります」
味覚症状がゆっくり進むと自覚しづらい
こう話すのは、順天堂大学医学部総合診療科学講座の横川博英先任准教授。先の研究を行うなど亜鉛欠乏症に詳しく、多くの患者も診ている。
「たとえば、亜鉛欠乏症では、味覚異常に陥ることはよく知られています。しかし、味覚異常がゆっくり進むと、味覚がおかしいとご本人もわからないことがあるのです」
亜鉛は人体の約300種類の酵素に関わり、亜鉛不足に陥ると、皮膚炎、食欲不振、味覚障害、貧血、感染症にかかりやすく重症化しやすいなど、さまざまな症状や病気を引き起こす。だが、体内で亜鉛は2~4g程度しか存在しないとされ、微量ゆえに不足しても症状がゆっくりと現れるとわかりづらいのだ。
「なんとなく不調」の裏に亜鉛欠乏症
味覚異常が現れても、完全に味が失われるわけではなく、「なんだか口の中がおかしい」と感じる。何日も続いて食欲までなくなってくると、「調子が悪い」と思い近くのクリニックを受診することになる。ところが、「X線検査や血液検査で特に異常は診られませんね。胃腸が弱っているのでしょう」と、胃腸薬の処方を受けるということが、実際にありがちだという。
症状はよくならず、食欲不振は続き、口の中の違和感も治らない。このような事態を亜鉛欠乏症は招くことがある。
「亜鉛欠乏症で口の中に違和感があっても、舌は正常ということがあります。血液検査で亜鉛値を調べるとすぐに亜鉛欠乏症はわかりますが、特異的な症状がないので、気づきにくいのです」
気分障害と間違われることも
近年、こうした味覚異常が疑われるときには亜鉛値を検査する医師が増えている。その一方で、亜鉛不足で気分が落ち込む症状は、気分障害と間違われやすい。治療を受けても症状がよくならず、あちこちの医療機関を受診するようなケースも起こりがちだという。
「私たち内科医は、亜鉛欠乏症や潜在性亜鉛欠乏の頻度が高いことを知っています。だからこそ医師も患者さんも、明確な病名がつきにくい症状や、治りにくい症状の原因に亜鉛欠乏症がありうることを知っていただきたいのです」
夏バテ予防のスタミナ食で亜鉛を補う
亜鉛欠乏症の啓発のために、横川医師は、亜鉛の疫学研究を行っている。予想以上に亜鉛不足が多い状況を危惧している。
「亜鉛欠乏症の予防も大切です。夏のうなぎのかば焼きは、亜鉛を補う一助になります。鶏肉やレバーなどの内臓肉も役立ちます」
夏バテ予防のスタミナ食は、亜鉛を補うことが可能だ。意識して摂るようにしよう。