亜鉛欠乏で糖尿病悪化
国内で予備軍も含めて約2000万人と、患者数が推計されている糖尿病と、亜鉛欠乏症は関係が深い。
「糖尿病になると、尿中への亜鉛の排泄量が増え、亜鉛欠乏症に陥りやすいのです。血糖値をコントロールするインスリン(ホルモンの一種)の合成や分泌に亜鉛が必要なため、糖尿病で亜鉛欠乏症に陥ると糖尿病も悪化しやすくなります」
亜鉛補給すればインスリン抵抗性改善
こう話すのは、順天堂大学医学部総合診療科学講座の横川博英先任准教授。今年2月、日本人の亜鉛欠乏症患者の頻度と臨床的特徴に関する研究論文を国際科学雑誌に発表するなど、亜鉛欠乏症に関する研究を行う。
「糖尿病で亜鉛欠乏症の人は、亜鉛を補給することでインスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなること)が改善することも報告されています。また、定期健康診断で高血糖でも、放置する人が依然として多いのが問題です」
糖尿病放置、治療中止で合併症に
定期健康診断の血液検査で、過去1~2カ月の血糖値状況を把握する「HbA1c(ヘモグロビンA1c)」6.5%以上は、糖尿病が強く疑われる。しかし、「要再検査」「要精密検査」などの結果を見ても、この段階では自覚症状に乏しいことが多い。結果、そのまま放置してしまう人がいる。
また、勤務先からの医療機関への受診勧奨で仕方なくクリニックを受診し、「糖尿病」と診断されて通院を始めたものの、自覚症状が乏しいゆえに、途中で治療を止めてしまう人もいるだろう。
この状態で亜鉛欠乏症も発症していると、糖尿病の悪化が促進され、糖尿病性網膜症などの合併症にもつながりやすいと考えられている。
高血糖状態放置は命の危機
「糖尿病の治療は、新薬の登場などで進歩しています。しかし、いまだに初診段階で糖尿病性網膜症の失明寸前、糖尿病性腎症によって透析療法が必要になるなど、糖尿病の合併症にまで進行した人がいるのも事実です」
糖尿病の合併症は、網膜症や腎症、神経障害に伴う壊疽(えそ)、心筋梗塞や脳卒中と命に関わる事態も招きやすい。高血糖状態を放置するのは、不健康というより命の危機に関わる。
亜鉛不足は感染症や貧血などにも関係
「定期健康診断の検査項目には、血糖値はあっても亜鉛は含まれないのが一般的です。人間ドックでは亜鉛の検査を入れているところもあれば、オプションで追加しているところもあります。高血糖はもちろんのこと、亜鉛不足のときにも、早めに医療機関を受診するようにしましょう」
亜鉛は、糖尿病以外にも、感染症や貧血など、さまざまな症状に関わることがわかってきた。
また、病院で手術を受けた後に食欲不振などに陥ったときには、血液検査で亜鉛値を調べ、少ないときには補充することで症状の改善と術後合併症の抑制につながることも報告されている。亜鉛は、それほど重要な栄養素として考えられるようになっているのだ。
「血液検査による亜鉛の検査件数は、近年、日本でも伸びています。私自身、実際に診療をしていても、亜鉛欠乏症の人を見かけることがあります。一般の方々にも、健康に役立つ亜鉛を意識してほしいと思います」と横川医師は強調している。