病気になると一気に亜鉛欠乏症に
体内に微量に存在しながら、タンパク質や遺伝子などの合成に関わる亜鉛。不足すると、味覚異常や男性不妊症などに陥ることで知られているが、より多くの病気に亜鉛不足が関与していることが、今年2月、国際科学雑誌に掲載された論文で明らかにされた。研究を行った順天堂大学医学部の横川博英先任准教授は、次のように話す。
「今回の研究で、亜鉛欠乏症は、肺炎、褥瘡(じょくそう)、サルコペニア、新型コロナウイルス感染症、慢性腎臓病などの併存症をお持ちの患者さんに多くみられました。健康な人は、潜在性に亜鉛が不足している人が、男性の場合半数近くいますが、これらの病気を合併すると一気に亜鉛不足に陥り、欠乏症にまで至ると考えられます」
免疫活性化の際に亜鉛消耗
たとえば、亜鉛は免疫細胞を活性化させる働きがある。ウイルスや細菌が肺に進入すると、免疫細胞が活性化されて炎症が起こる。その活性化に関わる亜鉛も急速に消耗され、体内の亜鉛が不足する可能性があるのだ。
一方、褥瘡は床ずれともいい、寝たきりなどで身体を動かさないことで血流が悪くなり、皮膚が損傷され、細菌感染を起こしやすくなる。感染症では、亜鉛が消耗されやすいのだ。亜鉛不足の人が新型コロナになると、重症化しやすいとの研究報告もある。
タンパク質を作れず筋肉量減少
加えて、亜鉛は、タンパク質の合成に関わる酵素としても重要だ。亜鉛が不足していると、タンパク質を合成できず筋肉を作れなくなる。サルコペニアは、筋肉量の減少により著しく身体機能が低下する状態で、亜鉛不足はサルコペニアにもなりやすい。
さらに、腎不全で透析療法を受けている患者の多くが、亜鉛欠乏症もしくは潜在性亜鉛欠乏との研究報告もある。
アルブミン値の低下にも関係
「食べ物でとった亜鉛は、血液中のアルブミン(タンパク質の一種)とくっついて、肝臓に運ばれます。慢性腎臓病になるとアルブミンが尿中に排泄されやすくなります。そのため血清のアルブミンが低下するのに伴い、血清亜鉛値が低値になりやすく亜鉛不足に陥りやすいのです」と横川医師は解説する。
アルブミンは肝臓で作られるため、肝機能が著しく低下する肝硬変でも、血液中のアルブミン値は低下する。同時に、亜鉛欠乏症にも陥りやすい。このように、さまざまな病気で亜鉛不足は引き起こされる。
健康体でも不足すれば病気発症の原因に
一方、健康な状態で、食生活によって亜鉛不足になっても、味覚障害、貧血、皮膚炎や脱毛症、男性ホルモンのテストステロンの減少による性腺機能不全など、いろいろな病気を発症する可能性がある。
病気で不足しても、健康な状態で不足しても、どちらも不健康を後押しする。
高齢になると食事からの吸収も減少
「食品からとる亜鉛の吸収率は20~40%と決して高くはなく、高齢で消化機能が低下すると、さらに吸収率が落ちると考えられます。体内の亜鉛を維持するには、バランスの良い食事を1日3回しっかり食べるといった栄養状態の維持、胃腸機能の維持も欠かせないといえます」
食事から亜鉛をしっかりとるには、胃腸の状態を健康に保つことも重要と心得よう。
(写真)亜鉛が豊富に含まれる牡蠣。効果的に吸収するには胃腸の健康も大切だ