日本人は亜鉛不足が多い
味覚異常や男性不妊症などの引き金になる亜鉛欠乏症は、夏バテや新型コロナが重症化しやすいことなどから近年、注目されている。食品でとれるはずのミネラルだが、日本は亜鉛不足の人が多いことがわかった。研究を行う順天堂大学医学部総合診療科学講座の横川博英先任准教授に話を聞いた。
体内で合成できず食事が重要な栄養素
亜鉛は体内で合成できないので、食事でとらなければならない。全身の細胞に取り込まれる亜鉛は、300種類以上の酵素の反応に関わる重要な栄養素だ。
「亜鉛は微量元素で体内にはごくわずか、2~4グラム程度しか存在しません。しかし、タンパク質の合成、糖代謝、遺伝子のDNAやRNAの合成など、人体にとって有益であり、必要不可欠な栄養素です」と、横川医師は説明する。
皮膚炎、脱毛症、免疫機能障害も
亜鉛欠乏症になると、味覚・臭覚障害、皮膚炎、脱毛症、免疫機能障害など、亜鉛が足りなくなるとさまざまな症状を引き起こす。男性では男性ホルモンのテストステロンの分泌が減り、精子の活性も悪くなって男性不妊症に陥る。
亜鉛の1日平均摂取推奨量は、成人女性で8ミリグラム、成人男性で1日11ミリグラム。厚労省の2019年「国民健康・栄養調査」によれば、亜鉛の1日平均の摂取量は、女性は7.7ミリグラムで男性は9.2ミリグラム。
女性は摂取量少ないが、男性の方が欠乏
女性は男性と比べて摂取量が低い。ところが、横川医師らの研究で、女性よりも男性の方が潜在性亜鉛欠乏に陥っている人が多いことがわかった。
「これまで日本には、実際に亜鉛が体内で足りているかどうかのデータがありませんでした。私たちは、日本人でどの程度が、亜鉛不足に陥っているかを調べたのです」
順天堂大学医学部附属順天堂医院の人間ドックを受診した約2000人を対象に、日本臨床栄養学会の『亜鉛欠乏症の治療ガイドライン』に基づき、亜鉛欠乏症(60μg/dl未満)、潜在性亜鉛欠乏(60~79μg/dl)、正常(80μg/dl以上)の基準を用いて検証した。すると、潜在性亜鉛欠乏の男性が46%と半数近くいることがわかった。女性は約38%だった。
病気になると亜鉛はさらに欠乏
「この2020年の研究では、一見健康な人でも亜鉛が足りていない人が多く、男性は女性よりも亜鉛不足に陥りやすいことを明らかにしました。次に、すでに病気になっている人は亜鉛の状態はどうなのか。その疑問を解き明かすため、新たな研究を行いました」
匿名化されたレセプト(診療報酬明細書)情報を基に、急性期病院を受診していて血液検査で血清亜鉛濃度のデータがある1万3100人を対象に解析。結果は、先の人間ドックの研究よりも悪い。潜在性亜鉛欠乏よりも少ない亜鉛欠乏症の割合が、男性で約37%、女性で約33%だった。
「亜鉛の血中濃度は、加齢とともに減少しますが、病気になると亜鉛欠乏症に陥りやすいことが示されました」
亜鉛不足が病気の進行を後押し?
健康でも不足しがちな亜鉛は、病気になると一気に減少する場合があり、それがこの夏、流行の兆しを見せている新型コロナウイルス感染症をはじめ、病気の進行を後押しする可能性がある。亜鉛不足をもっと意識することが大切だ。
(写真)うなぎの蒲焼100g(1串)には2.7㎎の亜鉛が含まれている