心臓・心疾患 もっとAEDを知ろう

もっとAEDを知ろう(5)~知識広げてAEDで助けるのが当たり前の社会に

もっとAEDを知ろう(5)~知識広げてAEDで助けるのが当たり前の社会に
コラム・体験記
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知識広がれば活用される

突然の心疾患から命を救うAED(自動体外式除細動器)が一般市民に普及して20年。最近では聴覚障害者が使用できるようアニメの液晶画面で操作法を示すものや、英語で指示する機能を備えたものもある。それでも日本ではAEDを活用する人がなかなか増えないのが現状だ。

AEDの普及に努めてきた救命救急医の本間洋輔氏は警鐘を鳴らす。

「もっと活用されるように、解決策を考えていますが、やはり知識を広げることに尽きます。オンライン講習やアプリで学べる機会を増やしています。“推し活”とコラボした救命活動の啓蒙も進めています。好きなアイドルやアスリートの情報発信なら耳を傾けてくれる人がいるので、それぞれのターゲットが狭くても深くリーチします」

“推し”に背中を押される

実際に、ゲーム関係者やブイチューバー、ビジュアル系バンドとコラボした救命講習会の出席者は熱心で、回を重ねるごとに、救命活動やAED使用の行動変容に結び付いているのだという。

街にも課題がある。

「24時間いつでもだれでもアクセスできるコンビニや交番などの場所へAEDの設置数を増やしたい。日本の公共施設にあるAEDの8割は、使用できない時間帯があります。そのため学校や店舗では屋外に設置する例も増えています」

シンガポールはAED先進国

AEDの“先進国”ではどうか。

「日本ではAEDの設置登録義務がないため、どこに何台、いつから置いてあるかなど管理されておらず不明確です。シンガポールでは国がAEDを一括管理して全てデータを把握しています。救命活動に協力した人に社会が称賛していることも大きな特徴です」

シンガポールでは、「AED駆けつけアプリ myResponder」という仕組みがある。誰かが倒れて救急車を呼ぶと、同時に400メートル以内にいる登録救命ボランティアのスマホに通知が届く。

現場に近いボランティアがAEDを持って駆けつけて救命活動を行えるため、自ずと救命率はあがっている。

〈心臓が止まるイコール=死〉決して他人事ではない

日本でも同様の取り組み「AED GO」が愛知県尾張旭市、千葉県柏市、奈良市で実装されているが、まだ救命につながったケースはないという。

「日本のメディアでは心停止で救われたケースばかりが大きく報道され、救われなかったケースはあまり知られることがありません。救命処置をしても結果的に救われない場合は多く、それがバイスタンダー(救命現場に居合わせた人)の精神的負担になるとの研究報告があります」

他人事ではない、ということをもう一度、強調しておきたい。

「救命処置に対して何かアクションを起こすのは誇らしいこと。アクションを起こすことが当たり前、というように社会の認識を変えてほしいと思います。〈心臓が止まるイコール=死〉という深刻さを自分ごとにできていないのです」

命をつなぐ知識を学ぶ人が増えるよう願っている。

【グラフ】公益財団法人日本AED財団のHPから

解説
千葉市立海浜病院救急科統括部長
本間 洋輔
千葉市立海浜病院救急科統括部長。救急医として臨床に従事しつつ、救急医療(特に救命教育やAED)をより身近に感じてもらう活動を続けている。公益財団法人日本AED財団実行委員、NPO法人ちば救命・AED普及研究会理事長。
執筆者
医療ライター
熊本 美加
東京生まれ、札幌育ち。医療ライター。性の健康カウンセラー。男性医学の父・熊本悦明の二女。大学卒業後、広告制作会社を経てフリーライターに。男女更年期、性感染症予防と啓発、性の健康についての記事を主に執筆。2019年、52歳のとき、東京・山手線の車内で心肺停止となり、救急搬送され蘇り体験をする。以来、救命救急、高次脳機能障害、リハビリについても情報発信中。著書『山手線で心配停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』(講談社)。