コロナ禍をきっかけに定着したテレワーク。働き方改革とも合致したことで、現在も継続している企業が少なくない。しかし、このテレワークにより、「第4の頭痛」ともいわれる症状を訴える人が増えているという。
後頭神経痛とは
頭痛はおおむね、「片頭痛」「緊張型頭痛」「群発頭痛」の3種類に分けられるが、ここ最近、第4の頭痛と言われる「後頭神経痛」が注目されている。
「症状が頭痛に似ているので『第4の頭痛』と呼ばれていますが、正しくは末梢神経ダメージによる神経の痛みです。つらい症状に悩まされている人は多く、当クリニックでも100人近い患者さんを診ています。正確なデータはありませんが、ここ数年の生活習慣の激変で確実に患者数が増えていると個人的に予測しています」
こう話すのは、日本頭痛学会専門医の丹羽潔氏(61)=別項。
特徴としては、片側の首から後頭部・頭頂部にかけてのチクチク・ズキズキとした一瞬の激痛(両側面同時ではない)、ビリッと一瞬電気が走るような痛みを繰り返し、痛みがないときはスッキリしているなどが挙げられる。これらの症状を感じた場合は後頭神経痛の可能性が高い、と丹羽氏は指摘する。
なぜ起きるのか?
後頭神経には、「大後頭神経」「小後頭神経」「大耳介神経」の3つがあり、これらがダメージを受けることで痛みが生じる。
この3つの神経は主に、下頭斜筋(かとうしゃきん)や下頭半棘筋(かとうはんきょくきん)、僧帽筋(そうぼうきん)や胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)など、頭を支える首の筋肉の間から皮膚の表面に向かって出ている。
そのため、首の筋肉による圧迫が刺激となって痛みが起こりやすくなる。首こりや肩こりなど、首周辺の筋肉のこりが強い人は、後頭神経痛を起こしやすい傾向にあるという。
では、後頭神経痛を訴えている人が増えているのはなぜか? 首周辺の筋肉のこりは、テレワークによる長時間の猫背姿勢=ストレートネック(スマホ首)からくる「姿勢の悪さ」が原因になっていることが多いという。また、加齢による頸椎の変形、精神的ストレス、気圧の変化(特に雨の前日)も影響していることがわかっている。
自宅に専用デスクがなく、ダイニングテーブルなどでテレワークを行っている人も多い。すると、パソコンの画面位置が低かったり、首だけひねりながら狭いテーブル上の資料を見続けるという歪んだ姿勢をとりがちだ。この状態を長時間、長期間続けることが後頭神経痛を誘発する、と丹羽氏は警鐘を鳴らしている。
対処法や予防法は?
「痛みが起きてしまったら、まずは痛み・神経痛の元を短時間、冷やしてみる。長時間は筋肉のコリにつながるので禁物です。また、入浴時にこりの部分をほぐしたり、ストレッチすることも効果的です。それでもダメなら専門医を受診した方がいいかもしれません。神経痛には通常の消炎鎮痛薬は効きません」(丹羽氏)
後頭神経痛は強い痛みを伴うが、危険なものではなく、適切な対処をすれば1週間くらいで自然に治ることがほとんどだという。
予防策としては、パソコンなどを使うときは正しい姿勢を心がけること。パソコンの高さや角度が変えられるスタンドも、肩こりや首の痛みを軽減し、負担を抑える効果が期待できる。
いまやパソコンやスマホは仕事や生活に不可欠なツールだけに、後頭神経痛はある種の現代病だと丹羽氏は言う。危険性はないにせよ、つらい痛みを避けるには、やはり姿勢を正すことだ。
丹羽潔
にわファミリークリニック院長。東京頭痛クリニック理事長。医学博士。日本頭痛学会専門医・指導医・代議員。東海大学医学部卒業後、ドイツ・米国の大学で脳神経内科を学ぶ。東海大学脳神経内科専任講師を経て、2005年、にわファミリークリニックを開院。15年、専門医のみによる日本初の頭痛専門クリニックを開設。著書に『日本初の頭痛専門クリニックが教える最新頭痛の治し方大全』(扶桑社)=写真=などがある。