心臓・心疾患 もっとAEDを知ろう

もっとAEDを知ろう(2)~基礎知識あれば目の前で倒れた人の救命率高まる

もっとAEDを知ろう(2)~基礎知識あれば目の前で倒れた人の救命率高まる
コラム・体験記
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年間約9万人が心臓突然死

日本では、年間約9万人が心臓突然死で命を失っている。1日換算で200人以上にもなる。私の体験記(『山手線で心肺停止!』)を読んだ60代男性のAさんから先日連絡があり、病室とオンラインで対面した。

Aさんは都心の地下鉄の車内で心停止したが、AEDによる電気ショック1回で心拍が回復、命を取りとめた。通常の会話ができて、脳へのダメージなどは感じられなかったが、「心停止はひとごとではないと思い知った」と話していた。

電車内で心停止!車内の女性が心臓マッサージ

後日、取材させていただき、詳しい状況がわかった。その日、いつもより急ぎ足で電車に飛び乗ったAさん。席についた数分後、奇声をあげて倒れたそうだ。

電車が動き出す中、車内にいた女性が機転をきかせ、すぐに車内で胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始。その間、男性が救急車を呼んだ。電車が駅に到着すると同時に運転士と駅員が駆け付け、女性と交代して胸骨圧迫を行い、AEDによる救命が行われた。心拍が戻ったことを確認して駅に運ばれ、電車はわずか8分の遅延で駅を出発した。

“その場に居合わせた人”バイスタンダーに知識があれば

バイスタンダーと呼ばれる“その場に居合わせた人”が知識を持っていたからこそ、命をつなぐリレーが適切かつ迅速に行われたのだ。倒れたとき、周囲に人がいても、救命の知識がなく、傍観していれば命は絶える。

ほとんどの公共交通機関で、乗客の救命救急は日常業務として訓練されている。そこへバトンを渡すために、われわれも知識を身につけておくのは、まわりまわって自分のためでもある。

日本国内に現在約67万台のAEDが設置されているが、電気ショックによる救命措置が実施されるのはわずか4%程度。知識が広がれば、救える命がもっと増えるのは間違いない。

目の前で人が倒れた!そのときどうする?

そこで、もし目の前で人が倒れた場合の初歩的な知識を、AEDの普及に長年取り組んでいる千葉市立海浜病院救急科統括部長の本間洋輔医師に聞いた。

倒れた人に声をかけ、意識があるか確認

応援を呼ぶ(119番通報・AEDを持ってきてと依頼する)

呼吸があるか確認し、普段通りの呼吸がない場合、心停止と判断し胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始

AEDが手元に届いたらスイッチオン。音声や表示に従って落ち着いて操作する

胸骨圧迫で生存率は2倍、AEDで半数が救える

「119番通報をしても救急隊の到着を待っているだけでは7%の人しか救命できませんが、胸骨圧迫で2倍近く生存率が上がります。胸骨圧迫は止まってしまった心臓に代わって、外側から圧力をかけることで、なんとか血を身体にまわすために行うもの。とにかくすぐに行うことが救命率向上のためには重要です」

AEDでの電気ショックを行えば、突然の心肺停止の約半数の人が救えるという。AEDの操作が1分遅れると、救命率は約10%下がっていくためスピードも求められる。事前にAEDに触れる機会をぜひ持ってほしい。


【グラフ】
総務省消防庁:令和4年版救急・救助の現況(公益財団法人日本AED財団HPから)
 

解説
千葉市立海浜病院救急科統括部長
本間 洋輔
千葉市立海浜病院救急科統括部長。救急医として臨床に従事しつつ、救急医療(特に救命教育やAED)をより身近に感じてもらう活動を続けている。公益財団法人日本AED財団実行委員、NPO法人ちば救命・AED普及研究会理事長。
執筆者
医療ライター
熊本 美加
東京生まれ、札幌育ち。医療ライター。性の健康カウンセラー。男性医学の父・熊本悦明の二女。大学卒業後、広告制作会社を経てフリーライターに。男女更年期、性感染症予防と啓発、性の健康についての記事を主に執筆。2019年、52歳のとき、東京・山手線の車内で心肺停止となり、救急搬送され蘇り体験をする。以来、救命救急、高次脳機能障害、リハビリについても情報発信中。著書『山手線で心配停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』(講談社)。