心臓・心疾患 もっとAEDを知ろう

もっとAEDを知ろう(1)~たったひとりのアクションが命を救う

もっとAEDを知ろう(1)~たったひとりのアクションが命を救う
コラム・体験記
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増えたAED…使い方を知る人は少数

今やAED(自動体外式除細動器)を知らない人はほとんどいないはずだ。町を歩けば、駅や公共施設、オフィスビル、百貨店、コンビニなどで「AED」を見かけたことがあるだろう。

ただし、設置されている場所を把握し、正しい使い方を知っているのは少数派。私自身、2019年にJR山手線車内で「心肺停止」で倒れて生死をさまよった経験をするまでは、なんとなく「心臓が止まった人に使う医療機器」と知っている程度だった。

どこに行けばあるか、どうやって使うかには、恥ずかしながら関心がなかった。心停止は他人事で、AEDは自分には無関係なものと思い込んでいた。

心停止は突然やってきた

まさかは突然やってきた。

心停止で救急搬送される前日まで普通に過ごしていた当時の私を襲ったのは冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)。

心臓に血液や酸素を送り込む冠動脈が、突然に超高速でブルブルと震えて縮み、心臓への血液や酸素の供給がストップし、数秒で心停止に陥った。思い返せば明け方に胸にモヤモヤとした痛みを感じる前兆はあったが、心臓病とは疑いもせず放置をし死にかけた。原因としてストレスや飲酒などが推測されたが、明確にはわからない。

2004年から一般市民も使用可に

「次に心停止したとき周りに人が居合わせるとは限らない」と、主治医の強い勧めで、私の左脇にはS—ICD(簡単に言うと小型AED)が植め込まれている。ちょっと大きなお守りだ。

「自動体外式除細動器」の「除細動」とは心臓がけいれんした状態(細動)のこと。AEDが心臓に電気ショックを与え、細動を取り除くことで、正常な状態に戻す効果が期待できる。

以前は医師など、限られた人にだけ使用が許可されていたが、2004年から私たち一般市民でも使用できるようになった。この20年でAEDの設置は徐々に拡大し、今や社会の基本的なライフラインとして欠かせない存在になっている。

市中に約67万台設置も使用率は4%

国内では22年まで約150万台のAEDが販売され、そのうち市中に設置されるAEDは約67万台といわれている。にもかかわらず、一般市民が目撃した心原性心停止で、AEDによる電気ショックが実施された割合はわずか4%程度だという。

AEDは手の届くところに設置されるようになったが、使用すべきときに使われていないのが実情。さらに目撃された心停止への救命処置が行われているのも約半数にすぎない。なぜなのか。救命救急医で、AEDの普及に尽力する本間洋輔氏に聞くと、原因は主に2つある。

「恐怖心」と「正しい知識」

「ひとつは恐怖心です。倒れている人に対して、自分が触って何か起こってしまったらどうしようと思うこと」

確かに、見ている方がパニック状態ではしようがない。

「2つ目は、救命処置の正しい知識がないこと。いざその場面に直面したときに何をしていいのかわからない。まず大事なのは、すぐに声をかけることです。もし電車の中で倒れた人がいて、みんなが固まっている状況でも、たったひとりが勇気を出して『大丈夫ですか!』と声をかけると、周りの人が一気に動き始めます。命を救うアクションは連鎖していきます」

私も蘇ってからは自分にできるアクションを起こすことを意識している。   

解説
千葉市立海浜病院救急科統括部長
本間 洋輔
千葉市立海浜病院救急科統括部長。救急医として臨床に従事しつつ、救急医療(特に救命教育やAED)をより身近に感じてもらう活動を続けている。公益財団法人日本AED財団実行委員、NPO法人ちば救命・AED普及研究会理事長。
執筆者
医療ライター
熊本 美加
東京生まれ、札幌育ち。医療ライター。性の健康カウンセラー。男性医学の父・熊本悦明の二女。大学卒業後、広告制作会社を経てフリーライターに。男女更年期、性感染症予防と啓発、性の健康についての記事を主に執筆。2019年、52歳のとき、東京・山手線の車内で心肺停止となり、救急搬送され蘇り体験をする。以来、救命救急、高次脳機能障害、リハビリについても情報発信中。著書『山手線で心配停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』(講談社)。