明け方に痛む「手根管症候群」
手指の関節周囲の問題には、「手根管(しゅこんかん)症候群」もある。3対1の割合で女性が多い病気だが、男性が罹患した場合に別の疾患の前兆である可能性があるので後述したい。
手根管とは、手首にある骨と靭帯で囲まれたトンネル状の部位で、その中には腕から伸びている神経(正中神経)や指を動かすための腱(屈筋腱)が通っている。手根管症候群は、このトンネル内の正中神経が圧迫されることで、手指のしびれや痛みが生じる病気だ。典型的な症状は、明け方に痛みが強まり、目覚めると、親指・人さし指・中指・薬指がしびれて痛む。
神経がやられやすい部位
「人間の体にはこのようなトンネルがいくつかあり、神経がやられやすい部位です。神経がトンネル内で圧迫されて起こる症状を絞扼(こうやく)性神経障害といいますが、これが最も起きやすいトンネルが手根管です」と、慶應義塾大学医学部整形外科学教室上肢班の岩本卓士准教授は説明する。
原因は加齢や手の使いすぎ、ホルモンバランスの変化
「手根管症候群は、手根管を通る屈筋腱の周りの滑膜(腱をなめらかに動かす滑液の入った膜)が膨らんだり腫れたりして、トンネルの中の容積が増し、神経が圧迫されることで起こります」=図参照。
原因は加齢や手の使いすぎ、女性であればホルモンバランスの変化等と考えられている。
塗り薬、内服、ステロイド注射で改善しなければ手術も
治療法は他の手指の症状と同様、まずは安静を保つために手首をサポーターなどで固定する。それだけで症状が改善することもあるが、痛みを早く取りたいときは消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服薬や塗り薬、貼り薬を使用したり、手根管内へのステロイド薬の注射を行ったりする。
しびれに対しては、神経の回復をうながすとされるビタミンB12などを服用する。女性で更年期や妊娠・出産期の場合は、ホルモンバランスを調える方法も治癒の可能性があるが、手根管症候群の治療では保険は利かないことに注意したい。
これだけでは改善しない、症状が強いなどの場合には、手根管開放術(靭帯を切開して圧迫を除く)を行う。
アミロイドーシスとの関係
ところで、近年はアミロイドーシスによっても手根管症候群が起こることがわかってきた。アミロイドーシスとは、アミロイドという異常なタンパク質がさまざまな臓器に沈着することで機能障害を起こす病気の総称だ。アミロイドが発生するメカニズムはまだ不明な点が多い。
アミロイドーシスは、複数の臓器に沈着する「全身性アミロイドーシス」と、特定の臓器に沈着する「限局性アミロイドーシス」に分類される。
全身性アミロイドーシス発症の可能性も
手根管症候群の患者の一部は全身性アミロイドーシスを発症している可能性があり、手根管症候群発症から約10年後には、心臓にアミロイドがたまる「心アミロイドーシス」になる可能性が高いことが近年わかってきた。
ちなみに、限局性アミロイドーシスの代表は、脳にアミロイドが沈着するアルツハイマー病だ。
慶應義塾大学医学部循環器内科の遠藤仁講師は、心アミロイドーシスの新しい画像診断によって、手根管症候群が心アミロイドーシスによく合併し、心臓より先に症状を来すため、早期発見に有用であることが分かってきたという。