骨と筋肉をつなぐ腱鞘に炎症が起きる
腱鞘炎(けんしょうえん)とは、骨と筋肉をつなぐ「腱」の動きを支える、「腱鞘」という筒状の組織に炎症が起こる状態だ。指が動く仕組みと腱鞘炎について、慶應義塾大学医学部整形外科学教室上肢班の岩本卓士准教授はこう説明する。
「手指には筋肉がほとんどなく、腕の筋肉から伸びる、ひも状の腱が指の骨にくっついていて、それを引っ張ったり弛めたりすることで指の曲げ伸ばしをしています。その腱を骨から離れないように、トンネル状に支えているのが腱鞘です。手の使い過ぎなどで腱と腱鞘の間に摩擦が起こると、炎症が生じて腫れ、腱が腱鞘の中をスムーズに通れなくなるのが腱鞘炎です」
更年期以降の発症はホルモンバランスと関係
腱鞘炎は仕事などで手指をよく使う人に多く、パソコンやスマホ、ゲーム操作でもなる人がいる。
腱鞘炎が進行して発症する「ばね指」や、手首の親指側に起こる腱鞘炎「ドケルバン病」は、手指の使い過ぎのほかに、更年期以降の女性や妊娠・出産期の女性に発症することが少なくない。そのため女性の場合は、ホルモンバランスの変化と関係していると考えられている。
手のひら側の指の付け根に痛み「ばね指」
ばね指は、指を動かすと、手のひら側の指の付け根に痛みや熱っぽさが生じる。手を開こうとすると、炎症によって腱鞘や腱が腫れて、腱鞘のトンネルをスムーズに通れなくなり、腱鞘に腱が引っかかって指が開きにくくなり、カックンとはねるように開くような症状が現れる。
親指側を通る2本の腱を支える腱鞘に痛みや腫れ「ドケルバン病」
ドケルバン病は、手首の親指側を通る2本の腱を支える腱鞘に炎症が起こり、そこに痛みや腫れが生じる。別名を「狭窄性腱鞘炎」といい、腱鞘のトンネルが炎症で狭くなっているので、親指を広げたり動かしたりすると強い痛みを感じる。
「なぜ狭くなるかというと、基本的には加齢で腱鞘を含めたいろいろな組織が硬くなり、物理的に狭くなるからです。しかし、手の使いすぎや更年期、妊娠・出産期の一時期になったものは、腱鞘がいきなり狭くなることはなく、腱の周りにある滑膜(潤滑液の働き)に炎症が起きて腱が膨らんで狭くなります。そのため、滑膜の炎症をとれば治る場合が多くなります」
ばね指も、妊娠・出産期以外は加齢による腱鞘の狭さがベースにあり、それ以外の因子がプラスされて炎症が起こり、腱や腱鞘が腫れてトンネルの通りが悪くなる。
ステロイド注射で炎症と痛みはとれる
治療法は、まずは安静にして炎症が治まるのを待つ。必要に応じてテーピングやサポーターなどで患部を安定させる。
痛みをとるためには、消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服薬や塗り薬、貼り薬を使ったり、腱鞘内へのステロイド注射を行ったりする。「安静にすれば、炎症はしばらくすれば取れますが、ステロイド注射を打てば炎症がとれて痛みもすぐに取れます。とくに手の使いすぎやホルモンバランスの変化による急性の炎症であれば、すぐに効果を発揮します」
ホルモンバランスを整えて改善も
女性の場合は、ホルモンバランスを調えることで改善する可能性はある。ホルモンバランスを調える方法には、更年期障害の治療薬やサプリメントなどが知られているが、手指の不調についての効果を実証する研究データはまだそろっていないことは知っておきたい。
繰り返し発症する場合には、腱鞘を切開して腱を通りやすくする「腱鞘切開術」を行う。