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「脳動脈瘤」最新治療法(4)~医工連携!患者に合った治療を3Dモデルで試す

「脳動脈瘤」最新治療法(4)~医工連携!患者に合った治療を3Dモデルで試す
病気・治療
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網目で袋形状の新デバイス「WEB」

くも膜下出血の最大原因・脳動脈瘤(りゅう)は、脳の血管に生じたコブを破裂させないことが重要になる。そのため、血管内にカテーテルという細い機器を入れて行う血管内治療では、さまざまな新しい方法が登場している。

「2020年には網目の袋状の形をした『Woven EndoBridgeデバイス(ウーブン・エンドブリッジデバイス=略称WEB)』が発売されました。脳動脈瘤のコブの中に、WEBを置くことで血流を止め、コブの破裂を防ぐ治療法です」と、東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座の村山雄一主任教授は説明する。

血管内治療の医療機器、米国で次々開発

コブの中に、糸のような医療機器を丸めるように入れ、コブへの血流を止めるコイル塞栓術は約30年前に開発された。約10年前には、コブの入り口をメッシュ状の筒形状の医療機器で塞ぐステント併用コイル塞栓術や、比較的大きなコブも治療可能な細かい網目状のステント・フローダイバーターも登場した。そして、約4年前に新たなWEBが発売され、血管内治療の進展を後押ししている。

「米国では日本と異なる保険制度ということもあり、開頭手術よりも血管内治療を行う傾向があります。そのため、WEBのような新たなデバイス(医療機器)が次々に開発されています。しかし、便利であっても適格に使用しないと、再治療が必要になるので注意が必要です」

コブのサイズに合わせたサイズが重要

袋状のWEBはカテーテルで運び、コブの中で開いて膨らむ仕組み。コブにサイズがピタッと合えば、コブの中への血流を防ぎ破裂のリスクをなくすことが可能になる。

だが、WEBはコブのサイズに合わせて膨らむわけではない。WEBにはいくつかのサイズがあり、事前の画像診断のコブのサイズに合わせて選ばなければならない。画像診断どおりにサイズが合えばよいが、合わないとやり直し。脳動脈瘤の治療のやり直しは、患者にとって負担が大きい。そこが最大のデメリットともいえる。

治療前に3Dプリンターで脳血管の3Dモデルを造る

「私たちは、患者さんの治療を行う前に、3Dプリンターを用いた脳血管の3Dモデルを造っています。コブの形状も再現できるため、治療前にWEBのサイズを試すことで失敗を回避しています。新しい治療では、デバイスだけでなくそれを活用する方法も重要です」

村山教授は、東京理科大学工学部との医工連携研究で、2010年から、3Dプリンターを用いた脳血管の3Dモデル造形を行っている。新しいデバイスは、あらかじめ3Dモデルで試すことで、患者に合っているか、的確に使用できるかがわかる。

3D造形は現行の保険制度では認められず

「3D造形は、あくまで最善の治療を患者さんに提供するため、われわれ脳神経外科の研究費負担で行っています。研究費で行い続けるには限界がある。患者さんごとのテーラーメード医療の実現のため、医療費の新たな仕組みが必要ではないかと思っています」

無駄がなくリスクを下げる医療の実現には、治療をサポートする道具も不可欠なのだ。しかし、脳血管の3D造形やソフトウエアを用いた術前のシミュレーションは現行保険制度では認められていないという。

「混合診療にはいろいろな意見がありますが、適正な医療の遂行のため、必要に応じて導入してもいいのではないかと思っています。前日に時間をかけてシミュレーションで予習をする医師と、当日その場で治療機器を選択する医師の、どちらが望ましいかはいうまでもないと思います」と村山教授はその必要性を力説した。

【写真】
コブの中に網目の袋状のWEBを入れることでコブへの血流を防ぐ (イメージ画像)=村山教授提供

解説
東京慈恵会医科大学脳神経外科学主任教授
村山 雄一
東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座主任教授、同大脳卒中センター長、脳血管内治療部診療部長。1989年、東京慈恵会医科大学卒。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校脳血管内治療部教授などを経て、2013年から現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医指導医など、多数の認定資格と役職を有す。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。