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「脳動脈瘤」最新治療法(3)~血管内治療の新兵器「フローダイバーター」とは

「脳動脈瘤」最新治療法(3)~血管内治療の新兵器「フローダイバーター」とは
病気・治療
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大きな脳動脈瘤が対象の医療機器

脳の血管がコブのように膨れる脳動脈瘤(りゅう)は、破裂すると、くも膜下出血を引き起こし命に関わる。破裂リスクが高い場合、血管の中からコブへの血流を止める血管内治療が近年躍進している。

この分野の第一人者、東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座の村山雄一主任教授が説明する。

「約10年前から比較的大きな脳動脈瘤を対象とした新たな医療機器『フローダイバーター』が登場し、治療の選択肢が広がりました。種類が増えたことで、再発リスクも減らすことができます」

10ミリ以上のコブでも適応

フローダイバーターは、ステントという医療機器のひとつ。細かい網目状の筒型で成り立ち、脳動脈瘤の入り口のある血管に置くと、コブへの血流を止めることができる。結果として、コブが大きく成長することも、破裂することも、止めることができるのだ。

脳動脈瘤の治療では、コブに糸のように丸めて詰める「コイル塞栓術」が、30年以上も前から行われている。が、10ミリ以上の大きなコブは、コイル塞栓術でコブへの血流を止めることが難しく、頭を開いて治療する開頭手術が適応されていた。フローダイバーターは、開頭手術適応の比較的大きな脳動脈瘤に対し、効果があることから約10年前に登場した。

コイルを詰める必要はなく「置くだけ」

コイル塞栓術は、カテーテルという細い管の先端にプラチナ製の糸のような医療機器を出して、コブにコイルのように詰めていく。きちんと詰めないと血流が入り込むため手間がかかるが、フローダイバーターはコブの入り口に置くだけ。その簡便さでも注目されている。

「開頭手術を行わなくても、コブの中にコイルをたくさん入れなくても、フローダイバーターで破裂のリスクを防ぐことができるメリットは大きい。現在、5ミリ以上の脳動脈瘤が適応になっています。ただし、血管の分岐にできた脳動脈瘤には向かないなど、デメリットもあります」

血管の分岐にできたコブには向かない

脳動脈瘤は、動脈が枝分かれした股の部分に生じやすい。股の部分にフローダイバーターを置くと、枝分かれした血管も塞いで血流を止めることになるため、1本の血管だけに生じた脳動脈瘤が対象だ。また、血管(動脈)の直径5ミリ以上が、フローダイバーターでは不可欠となる。2ミリといった細い動脈に生じた脳動脈瘤は対象外。

「新しい医療機器は脚光を浴びますが、適応を見定め、脳動脈瘤を破裂させないようにきちんと治療できるかどうかが重要になります」

カテーテルからフローダイバーターを開いて置くときに、ねじれたり、位置がずれてしまうこともある。トレーニングを積まないと難しい。新しい医療機器を使いこなすには、医師の努力が不可欠となる。

「脳動脈瘤に対する日本の医療技術は世界に誇れます。かつては、米国へ学びに行きましたが、今は、米国の医師が当院に学びに来ています。その技術力と新しい医療機器が組み合わさることで、日本の脳動脈瘤治療は、さらに発展できると思っています」

村山教授は、新しい治療を取り入れながら、脳動脈瘤治療全体の底上げにも貢献している。

【写真】
フロダイバーターのイメージ画像(網目の細かいフローダイバーターがコブの入り口を塞ぐことで、コブが大きくなるのを防ぐ)=村山教授提供

解説
東京慈恵会医科大学脳神経外科学主任教授
村山 雄一
東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座主任教授、同大脳卒中センター長、脳血管内治療部診療部長。1989年、東京慈恵会医科大学卒。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校脳血管内治療部教授などを経て、2013年から現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医指導医など、多数の認定資格と役職を有す。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。