糖尿病の治療薬は近年、食欲を抑えて体重が落ちやすい薬が登場するなど進化している。かつては、厳格な食事制限や運動療法を行わないと、網膜症や腎症、心筋梗塞などの合併症に見舞われるリスクが高かった。今では早期段階からきちんと治療を受けることで、合併症を発症することなく寿命をまっとうできるようになったという。では、食生活の見直しをどのように考えればよいのか。
薬だけでは2~3キロ減で止まる
2型糖尿病の引き金は暴飲暴食といわれる。たくさん食べて食後の血糖値が急上昇するようなことを重ねるうちに、血糖値をコントロールするホルモンのインスリンの効きが悪くなり、食後の血糖値が下がりにくくなる。血糖値を下げるために、多量のインスリンを分泌することで、膵臓が疲弊してインスリンの分泌量が減っていく。高血糖状態が続くと2型糖尿病へステージが上がる。
この状態を解決する方法のひとつとして、余分なブドウ糖を尿中へ排泄する「SGLT2阻害薬」が、2014年に保険適用となった。インスリンの分泌量や効き目と関係なく、余分なブドウ糖を体外に出してくれるため、体重減少が期待できる。「食べても痩せる夢の薬」といいたいところだが、そうではない。
東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科の西村理明主任教授が解説する。
食生活の見直しが重要
「食生活の見直しをしないままSGLT2阻害薬を服用していると、体重減少は2~3キロ程度で止まります。尿から排出するブドウ糖量は一定なので、薬だけに頼っていると体重も一定の減少で止まってしまうのです」
薬の効果を最大限に引き出すには、やはり、食生活の見直しが欠かせないのである。
食後15~30分経ってから早歩きを
2型糖尿病の予防には、暴飲暴食を止めて運動習慣を持つことが大切なことは、耳にタコができるほど聞かされてきたと思う。しかし、仕事や家事の多忙からジム通いやウオーキングの時間が取れないと、つい“言い訳”を探してしまう。ストレス発散が「食事」になっている人は、暴飲暴食にもつながりやすい。
「血糖値を24時間測定できる持続血糖モニターのデータを解析すると、食後に歩くだけでも、食後の高血糖を防ぐことが可能です。食後15~30分経ってから、早歩きを意識してみましょう」
階段を使い電車では立つ
朝食を済ませた後、15分程度経ってから早歩きで駅へ。エスカレーターは使わず階段を上り、電車も座らずに立ったまま出勤してみる。これだけでも、慣れないと疲れるほど運動量はある。昼食は職場から少し遠い店に行って、帰りは速歩で戻る。自宅で夕食をとる場合は、歩くのが難しいので、食後のストレッチなどで体を軽く動かすようにする。
「食後に少し体を動かすと、血糖値は低下します。ほんの少しの見直しを積み重ねることで、血糖値を正常に導くことにつながるのです。そんな運動の効果が、適切な治療薬と組み合わさることで、重篤な高血糖の予防になります」
治療の力も借りながら、少しずつ取り組むことで2型糖尿病は克服できる時代になった。この春、定期健康診断で糖尿病の可能性が指摘された人は、放置することなく積極的に受診して治療を受けよう。