糖尿病 糖尿病の最新治療

糖尿病の最新治療(6)~インスリン療法と合わせ効果高い「GLP-1受容体作動薬」

糖尿病の最新治療(6)~インスリン療法と合わせ効果高い「GLP-1受容体作動薬」
病気・治療
文字サイズ

GLP-1とは

糖尿病治療薬で、近年注目を集めているのは「GLP-1受動体作動薬」だろう。糖尿病の人が治療薬として適正に使用すると、とても効果が高い。だが、糖尿病以外の美容目的で「やせ薬」として不適切に流通し、高額請求や体調不良などのトラブルで国民生活センターへの相談が増えているという。どんな薬なのか。

インスリンの欠点を補う

糖尿病は、血糖値をコントロールするホルモンのインスリン不足や、インスリンの効きが悪くなることで発症する。治療には食生活の改善に加えて、現在さまざまな治療薬がそろっている。治療法に精通する東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科の西村理明主任教授が語る。

「インスリン製剤の皮下注射は、高血糖を改善するためにとても有効な薬です。ただし、体重が増えやすいという欠点があります。GLP-1受容体作動薬は、その欠点を補う作用があるのです」

食後の高血糖は血液中に余分なブドウ糖がありすぎることが原因となる。インスリンによって、細胞や臓器がブドウ糖を取り込むことで血糖値は下がる。が、脂肪細胞にもブドウ糖が取り込まれやすくなるため、適切な食事・運動療法を行わないと体重が増えるのだ。

食欲を抑える働き

「GLP-1受動体作動薬は、膵臓のインスリン分泌を促すと同時に、食欲を抑える働きがあります。インスリン療法と合わせると非常に効果が高い。糖尿病の治療薬にはたくさんの種類があるだけに、上手く組み合わせることが重要です」

インスリン療法とGLP-1受容体作動薬を組み合わせた配合注射製剤は、2019年から発売された。翌年には1日1回の皮下注射ですむ配合剤も登場している。

「配合剤は便利ですが、患者さんの状態に合わせて薬剤を調節するには、インスリン療法とGLP-1受容体作動薬をそれぞれ別々に投与すべきです。利便性が良いにこしたことがありませんが、最大の効果を引き出すには、多少不便になることもあるのです」

食欲を抑える作用で治療に効果

GLP-1受容体作動薬は、食後に胃の内容物が腸へ移動するのを抑えるので食事量が減り、食欲も抑える作用がある。食べる量が減るので当然のことながら痩せる。だが、ご飯などをお腹いっぱい食べて糖尿病になってしまった人の中には、「食欲が奪われた」と嘆く人もいるという。

それほど、GLP-1受容体作動薬は効果がある。

「薬には相性があります。効果があっても、副作用が出るなど体に合わない人はいます。糖尿病の治療薬にはたくさんの種類があり、そのさじ加減でより治療効果が高くなることもあります」

糖尿病薬5つの働き

糖尿病の薬は、大きく分けるて次の5種類がある。(1)インスリンを補う、(2)インスリンの分泌を促す、(3)インスリンの効きを良くする、(4)ブドウ糖の吸収を遅らせる、(5)ブドウ糖を尿から排泄する。これらの分類でさまざまな種類の薬が登場している。21年には「イメグリミン」という新たな作用機序(メカニズム)の薬も発売された。

「糖尿病の治療を適切に受けることで、合併症を発症することなく、寿命を全うできる時代になっています」と西村教授は話す。専門医の処方による治療薬の選択が重要な鍵を握っている。

解説
東京慈恵会医科大学内科主任教授
西村 理明
東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授。同大附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科診療部長。医学博士。公衆衛生学修士。1991年、同大卒。富士市立中央病院内科医長、米ピッツバーグ大学公衆衛生大学院などを経て2019年から現職。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。