糖尿病 糖尿病の最新治療

糖尿病の最新治療(3)~医療現場に光をもたらした2つの治療薬

糖尿病の最新治療(3)~医療現場に光をもたらした2つの治療薬
病気・治療
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近年、糖尿病治療薬は血糖値コントロールを行いやすく、なおかつ、体重も減りやすい薬が登場している。一部の薬は、適用外のダイエット目的で使用されて問題になるほど威力が強い。そんな新しい機序(メカニズム)の治療薬について、千葉大学医学部附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科科長の小野啓准教授に話を聞いた。

GLP-1受容体作動薬

糖尿病の治療は高血糖を改善することが重要だが、薬によって血糖値が下がりすぎると低血糖になり、神経系に異常を引き起こし痙攣(けいれん)や昏睡状態などで命に関わることがある。低血糖にならないようにしながら、薬を上手く活用することが、かつては大きな課題となっていた。その状況を一変させたのが「GLP-1受容体作動薬」の登場だ。2010年に週1回投与の糖尿病治療薬として発売され、現在では、皮下注射薬6種類、経口薬1種類が承認されている。

「GLP—1受容体作動薬は、高血糖のときに膵臓(すいぞう)に働きかけてインスリンの分泌量を増やし、脳に働きかけて食欲を抑える作用があります。単独使用では低血糖も起こしにくく、まさに大発明の薬といえます」

もともと糖尿病治療薬には、インスリン量を増やす薬はあるが、「食欲を抑えて体重を落とす」薬は皆無だった。必要に応じてインスリンの分泌を促し、食欲も抑えるのは、GLP-1受容体作動薬ならではの機能だ。肥満症治療薬としても承認され今年2月には、GLP-1受容体作動薬のひとつ「セマグルチド(一般名)」が発売された。

「高度肥満症では効果的な薬が乏しく、治療を諦めていた患者さんも以前はいました。『セマグルチド』の登場で治療が行いやすくなりました。体重減少を実感でき、食生活の見直しへの意欲も向上しやすいと思います」
 昨年、糖尿病治療でさらに効果的な「持続性GIP/GLP-1受容体作動薬」も新たに登場した。かつての治療と劇的に変わりつつある。

SGLT2阻害薬

高血糖をコントロールするには、余分なブドウ糖を体外に出すのもひとつの方法だ。尿中にブドウ糖を排泄する「SGLT2阻害薬」は2014年に登場した。

「SGLT2阻害薬は、2020年に慢性心不全、21年に慢性腎臓病の治療薬としても承認されました。糖尿病の患者さんは、慢性心不全や慢性腎臓病を合併することがありますが、SGLT2阻害薬を服用したことで、いずれの症状の改善も明らかになりました」

慢性心不全は、心臓の機能低下が継続している状態。慢性腎臓病も腎機能低下が続く。どちらも機能回復が難しいだけに、新たな治療薬・SGLT2阻害薬の登場は、医療現場に光をもたらしたともいえる。一方、GLP-1阻害薬によって、低血糖に注意が必要な状態の人も治療を受けやすくなった。SGLT2阻害薬との併用で、食生活の見直しにも取り組みやすい状況に、さらになっているという。

「私たちのマウスの研究では、高齢になるとインスリンの効きがよくなっていました。年を重ねると不健康になるといわれがちですが、糖尿病に関しては高齢になると改善する可能性があるのです。中年期に薬を上手く活用して健康を維持して、高齢期を迎えていただきたいと思います」
 

解説
千葉大学医学部附属病院内科科長、准教授
小野 啓
千葉大学医学部附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科科長、准教授。1995年、東京大学医学部卒。米国アルバートアインシュタイン医科大学、埼玉医科大学などを経て現職。糖尿病や肥満、インスリン抵抗性について診断・治療・研究を数多く行う。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。