“国民病”の治療がめざましく進展
糖尿病が強く疑われる割合は、男性で約20%、女性で約11%(2022年「国民健康・栄養調査」)。かなりの確率で、避けられない国民病といえる。高血糖状態を放置すれば、心筋梗塞や脳梗塞、失明原因の網膜症など、さまざまな合併症に見舞われることから、現実を見ないようにする人もいる。だが、近年、新たな薬の登場で治療の進展が目覚ましい。そこで、素朴な疑問から最新治療まで、専門医に詳しく取材。役立つ情報をお届けしたい。
インスリンとは
健康診断で「早朝空腹時血糖値126㎎/dl以上」、過去1~2カ月の血糖値の平均値を示すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が「6.5%以上」で、糖尿病の疑いが強くなる。
いわば、高血糖状態が続いて体に悪影響を及ぼしているサインともいえる。そんな高血糖を正常値に戻すのがインスリンだ。食後に血糖値が高くなると膵臓(すいぞう)から分泌され、それを合図に筋肉や肝臓、脂肪細胞がブドウ糖を取り込み、血糖値が下がる仕組みになっている。
「細胞がブドウ糖を取り込むことに加え、インスリンは、脳に作用して食欲を調節したり、さらに間接的に血糖値を制御します。その働きも、とても重要です」
インスリン抵抗性で脳も栄養不足に
こう話すのは、千葉大学医学部附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科科長の小野啓准教授。糖尿病の診断・治療はもとより、インスリンの血糖低下機序や脳への作用、いろいろな臓器への障害機構の解明の研究も長年行っている。
「インスリン抵抗性になると、膵臓からインスリンが分泌されていても、細胞がブドウ糖を取り込めなくなり、脳への作用も低下します。その悪影響の研究も進めています」
インスリン抵抗性になると、細胞がブドウ糖をうまく取り込めなくなるため、さまざまな臓器に悪影響が出る。脳も栄養不足に陥り、血糖値を抑えられない状態につながるのだ。まず、このことをよく覚えておこう。
脂肪食が悪影響
高血糖の改善では、血糖値は糖質との関係が深いため「糖質制限」を行う人がいる。これは果たして正しい判断なのだろうか。
甘いお菓子はもとより、ご飯やパン、パスタなどの炭水化物の量を減らし、肉類・魚類・豆類などのタンパク質、バターやラードなどの油分をたっぷり食べる。すると、自然に体重が落ちることがある。
「短期的な糖質制限は、高血糖を改善するために役立ちます。ですが、長期的に見ると疑問符が付きます。脂肪を食べすぎると、脳のインスリンの効きが悪くなるからです」
脂肪分の多い食事継続でインスリンの効きが悪化
脂肪分の多い食事を継続すると、脳の視床下部のインスリンの効きが悪くなり、食欲コントロールに悪影響を及ぼすというのだ。間接的に肝臓のインスリンの効き目も悪くなる可能性が、研究で明らかになったという。脂の乗った肉類で山盛りのご飯を食べるのは、たしかにおいしいが、毎日続けていると、知らぬ間にインスリン抵抗性が進む可能性がある。
「長期的に見て、糖質制限をして脂肪分の多い食事をすることが良いのか悪いのか。さらなる研究が必要です。が、適量をバランスよく食べることが健康に役立つと思います」
糖尿病治療薬も進化
近年、糖尿病治療薬はかなり進歩している。
定期健康診断で血糖値が「D判定」の要治療や要精密検査が出たときには、まず医療機関を受診することが望ましい。
「D判定でも必ずしも治療が必要なわけではありません。診断を受けてご自身の身体状態を把握し、食生活の見直しに役立てていただきたいと思います」と小野准教授はアドバイスする。